問題の食事会には総理のほか林官房長官と官房副長官の橘慶一郎衆院議員、青木一彦参院議員も同席していたようで、商品券配布は青木副長官のアイデアだったらしい。青木議員は、内閣官房長官などを歴任し「参院のドン」「気配りの人」といわれた故・青木幹雄氏の長男。そういえば、幹雄議員が参議院幹事長時代に女性議員の事務所に「ワイシャツお仕立券」が届いたことがあって、「なぜ女性にワイシャツ?」とその女性議員がボヤいていたのを思い出した。
政治家が配るものといえば、今回のような新人への陣中見舞い、冠婚葬祭費などの交際費、たびたび問題視される香典や線香代のほか、地元会合の参加費や秘書を代理出席させる人件費などあるが、目的はすべて「得票のため!」だ。
配られるのは現金の他、商品券、お仕立券、テレホンカードや図書カード、ビール券、株主優待券などのいわゆる金券。「商品券は三越の包装紙で」という謎ルールもあり、買いに行かされることもあった。ただ「商品券10万円」はさすがに最近聞いたことがない。
今回の件が発覚した背景には、「世襲以外」議員の増加が考えられる。永田町の文脈がわかっている議員なら「おかしい」と思ってもSNSやマスコミに流すことはない。自民党議員の感覚も変わったのだろう。
そうしたお金を除けば基本、国会議員は「もらう側」だ。縁故採用、裏口入学、交通事故のもみ消しまで昔は色々な陳情を受けたし、就職や入学ができたら50万円、できなくても20万円は陳情者が持ってきた。本人以外に親族名義で多額な献金もあった。金券屋で換金した後は事務所のキャビネットに収める。力がある議員ほど蓄財できたのだ。
会合で待機中の秘書たちに「御車代」と書かれた封筒が企業などから配られることもあった。中身の相場は1万円だが、たまに10万円くらい入っていることもあり、それを渡されたときは「今日の会合はヤバいんだ」と戦慄したものだ。参加者名を外に漏らしたらクビ‥‥そんな案件である。
今ではコーヒーチェーンのプリペイドカードやLINEギフト券などをいただくこともある。この手の物を受け取るのは問題ないが、私、神澤としては3000円を超える場合は何かお返ししようと考える。3万円以上なら受取拒否か返却だ。
さて冒頭でも触れたが、商品券の原資は官房機密費以外考えられない。日ごろの石破総理を知る人なら「あの石破さんが自腹で新人議員に商品券を配るなんて絶対にない!」と断言するだろう。総理としても「官房機密費でした」とは口が裂けても言えない。機密費使用は官房長官の特権で、総理でも自由に使うことはできないからだ。
石破総理は政策通で真摯に話を聞いてくれるが「親分肌」ではない。「今日はみんなご苦労様。たくさん食べてね」といったねぎらいエピソードは聞いたことがない。「贈り物をしても石破さんからお返しをもらったことはない」という話ばかり。
それ以前に今どき会食した相手に10万円のお土産を渡すなんて、総理以外の大臣でも考えられない。
なぜ吉村麻央首相秘書官(歌がメチャクチャうまい)は商品券を配ることに反対しなかったのだろう?
しかも配布は食事会の場でなく、石破事務所の新人秘書が「事前に」各事務所に届けていた(返したのに再び持ってきたとも)。これは「食事の席で総理にお礼を言いなさい」という圧力だったのではないか。
「石破事務所にAさんがいたら、商品券は配られていなかったかも」との声もたびたび聞く。Aさんとは今年1月末に「健康上の理由」で退職した石破総理のベテラン公設秘書だ。総理はブレーンに恵まれていないと言われるが、Aさんはとてもしっかりした人だった。
総理が「商品券を配ったのは事実」と認めたことで炎上したのも少々残念な話である。総理はよく言えば「倹約家」。自民党の慣習なんかに合わせなければよかった。「石破さんらしさ」を出せずにいるのはこの件だけではない。最高権力者の立場になっても「自分らしさ」を出せなくなってしまうところに、「自民党の恐ろしさ」はあるのだ。
衆院議員政策秘書:神澤志万