日本時間の4月5日から6日にかけて、アラブ首長国連邦のメイダン競馬場で開催された「ドバイワールドカップデー」には、今年も多くの日本馬が参戦した。
戦前から「世界的なダート王」として耳目を集めていたフォーエバーヤングこそGⅠ・ドバイワールドカップ(ダート2000メートル)で3着に敗れたが、GⅠ・ドバイターフ(芝1800メートル)ではソウルラッシュ、GⅠ・ドバイシーマクラシック(芝2410メートル)ではダノンデサイル、GⅡ・UAEダービー(ダート1900メートル)ではアドマイヤデイトナが優勝をもぎ取るなど、異国の地で日本馬が大いに暴れ回った。
中でも「世界最強馬」と言われるロマンチックウォリアーを退けて優勝したソウルラッシュのレースぶりは圧巻だったが、今回の激走の裏側には、ドバイターフ制覇へ向けたソウルラッシュ陣営の、緻密にして大胆なマル秘作戦があったと、筆者はみている。
話は3月2日のGⅡ・中山記念(中山・芝1800メートル)に遡る。この時、筆者は本サイトが3月1日に公開した記事で、「ローテーション」「距離」「コース」「斤量」など、ソウルラッシュが抱える「4つの不安材料」を指摘した。中でも気になっていたのがローテで、筆者は記事の中で次のように断言した。
〈(不安材料の)第一は、陣営が4月5日にメイダン競馬場で行われるGⅠ・ドバイターフ(芝1800メートル)を「今春の最大目標」としている点である。つまり、陣営にとって中山記念の位置づけはあくまでも次走へ向けた「試走」であり、お釣りのない「目一杯の仕上げ」で臨んでくることは基本的に考えにくいのだ〉
はたせるかな、結果は1番人気を裏切っての3着。しかし、である。筆者は中山記念の結果から「ドバイターフではソウルラッシュの一発がある」と肝に銘じたのだ。
もともとソウルラッシュはマイルのGⅠ戦線で活躍してきた馬である。その生粋のマイラーを芝1800メートルの中山記念に出走させた理由について、陣営は「年齢的にズブさが出てきたため、1ハロンの距離延長を選択した」と説明していたが、このコメントはホンネを煙に巻いて隠す「煙幕」の類だと、筆者はみていた。
つまり陣営は1600メートルから1800メートルへの路線変更にむしろ強い自信を持っており、「中山記念を叩いてドバイターフを獲る」という青写真を秘かに描いていたと考えられるのだ。このシナリオや勝負度合いをキッチリと読み切ることができれば、ドバイターフでの好配当単勝馬券(1620円)はゲットできたはずである。
今後、JRA所属馬の海外遠征は、ますます盛んになっていく。それだけに「陣営がどのレースを叩き台にし、どのレースを本気で狙っているのか」の見定め、すなわち陣営の「勝負度合い」の見極めが、いっそう重要になってくるのだ。
今回のソウルラッシュのケースで言えば、「叩き台の中山記念は消し」「本番のドバイターフは買い」だったのである。
(日高次郎/競馬アナリスト)