将棋の藤井聡太名人が、不利とされる後手番ながら永瀬拓矢九段との第1局を制し、名人戦3連覇に向けて好スタートを切った。
2日制の初日、永瀬九段は封じ手「9八同香」(83手目)としたが、局面が動き出したのは2日目の午後だった。藤井名人は封じ手あたりの形勢について、
「難しいかなと思ってやっていました」
確かにこの時点でのAI判定は「互角」。ところがその後、永瀬九段が受けに回ったところで、藤井名人が7七銀(90手目)を打ち込むと、一気に激流と化した。
藤井名人は終局後、報道陣に対して、
「9七金(112手目)と打って、読み抜けがなければ詰んでいるんじゃないかと考えていました」
と語ったが、134手の投了までをこの時点でしっかりと読み切っていたというから驚きだ。
その読みの早さは、AIをはるかにしのいでいる。100手時点のAI評価値は、藤井名人59%、永瀬九段41%だった。ところが藤井名人が112手目に「9七金」を打つと、一気に「100%×0%」に。これには解説の広瀬章人九段が思わず、
「恐ろしいものを見ました。こういうのを見せつけられると、いかんともしがたい、とてつもない武器を兼ね備えているなと、改めて実感した」
唖然とするばかりだったのである。
藤井名人は記者から「事前の研究はどこまでしていたか」と問われると、
「一応、8八歩と打って、かなり際どいので、そのあたりまで考えていて」
封じ手前の78手目「8八歩」まで、最初から研究済みだったというのだから、もはや完全にAIを超えていると言っても過言ではなかろう。
対局が明けた4月11日、「見る将」界隈は、藤井名人の神がかり的な指し手の話でもちきりだ。挑戦者の永瀬九段は対局前に「常人じゃ藤井さんに勝てない」と語っているが、第2局はどんな作戦で挑むのか。4月29日と30日、東京都大田区の「羽田空港第1ターミナル」で激突だ。
(ケン高田)