自民党の森山裕幹事長といえば、歴代最長の国対委員長の在職期間が示すように「国対族」、あるいは鹿児島選出ということで「農林族」としても知られるが、実はもうひとつの顔がある。それは財務副大臣や政務官を経験した「大蔵族」でもあるということだ。与党内で参院自民党を中心に、夏の参院選を控えて減税を求める声が出る中、「壁」として立ちはだかったのが、この森山氏だった。
森山氏は4月8日夜、秘かに首相公邸を訪れ、石破茂首相と約1時間、話し合った。物価高や米トランプ政権による関税措置への対応として、国民一律に現金5万円程度を給付する案を主張したとみられる。
森山氏が石破首相のもとを訪れたのには理由がある。石破首相は3月28日の参院予算委員会で消費減税の可能性を問われると、
「一概に否定するものではない。物価高対策として考えられないことではない」
と、前向きともとれる発言をした。
「これは政府内で調整したものではなく、石破首相の思い付きだった」(政府関係者)
政治ジャーナリストの青山和弘氏によれば、石破首相は減税について「政権を失うことを考えたら安いもんだ」と漏らしたという。この発言に反応したのが財務省で、
「守護神である森山氏のもとに駆け込んだ」(与党関係者)
そこで森山氏はすぐに動き、「減税をやったら党が割れる」として石破首相の説得に努めた。森山氏の後ろ盾がないと政権を維持できない石破首相はあっさりと説得に応じ、現金給付に軌道修正した。
今回の一件は改めて、石破政権内での森山氏の発言力の大きさを浮き彫りにした。と同時に、
「これほど首相としての発言が軽いのは、民主党の鳩山由紀夫首相以来だ」
との不満が政府・与党内から高まっている。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)