長渕はそんな逆風に逆らうように、今年8月22、23日にかけて富士山麓で「10万人オールナイト・ライヴ」を敢行する。
一口に「10万人」というが、東京ドームの収容人数が5万5000人、武道館で2万人である。「富士山麓」がいかに大規模なものか理解できよう。デビュー当時から長渕を知る音楽評論家・富澤一誠氏が語る。
「そもそも桜島の7万5000人を動員したコンサートでさえ、一生に一度できるかできないかの規模だと思う。それを超える10万人の野外ライブをやると言う時点で奇跡的なこと」
長渕は製作スタッフに、
「10万人を集めろ!」
と檄を飛ばしているという。だが、広告代理店関係者の目は冷ややかだ。
「チケットは現時点でまだ売れ残っています。長渕さんは古くからのファンによって支えられていて、彼らも年を取り、今や50代前後。年齢的な衰えから徹夜をするのは体力的にキツい。『別のコンサートまで待つ』という人が多いですね」
そうした状況の中、長渕サイドの衝撃的な証言をキャッチした。地方行政に携わる関係者が言う。
「行政が所有する小さなホールを使いたいという申し出でした。富士山麓のライブを最後に、メディア出演や大きなライブはしないようです。これからは市民会館などの小さな会場で全国行脚の旅をするようで、商業的ライブではなく、今まで支えてくれたファンに感謝するイベントのようなもの。第一線を退くという意味だと聞こえました」
原点に帰ってファンに恩返し──今後はド派手なライブは見られなくなってしまうのか。真偽を確認しようと、長渕の自宅を直撃した。だが、自宅から出てきたものの、その日は足早にタクシーに乗り込み走り去ってしまった。スタッフに事務所を通すように言われ質問書を送るものの、期日までに回答はなかった。
富澤氏が言う。
「普通のコンサート活動に戻るということではないか。メディアに出ることを控えるというのも、これまでも積極的に出ていたわけじゃないですから」
「桜島──」で、サイドボーカルを務めていた浜田良美氏は、長渕の“路線変更”にこんな感想を寄せた。
「小さな会場はやっぱりお客さんの息遣いを感じられる、ということでしょうか。ひとりひとりと対話しているような気持ちですね。アリーナみたいな会場では、お客さんのエネルギーの塊みたいなものが迫ってきますね。こちらも興奮するわけです」
歌手の原点へ“とんぼ”帰りするということか──。