だが、問題がないわけではない。クラブ馬に詳しい競馬ライターが言う。
「こうクラブ馬ばかり走ると、高い金を払って社台から馬を買った個人馬主が『セレクトで買った高額馬よりもクラブ馬のほうが走るのは納得いかない』と憤慨するケースも見られる。また分家のキャロットファームからハープスターやエピファネイアといったGI馬が出てくることにいい顔をしない社台レースホースやサンデーレーシングの会員もいます。『400口で募集するほうにGIで活躍する馬が多いのはどうもねぇ』と」
社台が他の共同馬主クラブを傘下に収めるのには理由がある。毎年、1100頭ほどの生産馬を売らなければならないからだ。これはサラブレッド年間生産数の約17%を占め、その多くはJRAに登録されてデビューする。デフレ不況で個人馬主が年々減っている中、それらを売り切るためには延べ会員数7万人と言われる一口馬主に頼らなければならないのだ。
「牝馬は引退後、牧場に戻ってきますが、これが大きいのです。その子供が産まれたら、またクラブに出して売るという流れができますから。そのメリットがあるから、勝己さんはシーザリオ(キャロットファームにいたオークス馬)の仔のエピファネイアを迷うことなくキャロットファームに出したんですよ。会員は喜びますし、馬も走っている。今、ノーザンファームに対する会員の信頼は絶大なものがあり、少々高くても買ってくれる。いや、実際のところ、高い馬から売れている」(競馬ライター)
傘下に収めたクラブへの手厚いもてなしも見逃せない。シルクレーシングを傘下にするやいなや、その1期生に12年の阪神ジュベナイルフィリーズ(GI)を勝ったローブティサージュを提供。会員に希望と安心感を植え付けた。今年の皐月賞4着馬ブライトエンブレムも同クラブ馬だ。
では、ノーザンファームから毎年のように走る馬が出るのはなぜなのか。もちろん、その第一には血統がいいことがあげられる。善哉氏は「サラブレッドの世界は育ちより氏」をモットーにしてきたが、その考えは息子たちにも受け継がれている。
日々、日本だけでなく外国の競馬やセリ市場にも目を向け、チェックすることを怠らない。そうして気に入った馬はすかさず買い求める。特にリーマン・ショック以降の円高局面で、欧米のセリに出向いて著名な名牝を落札していった。