スポーツ

競馬界の巨大王国「ノーザンファーム」の独走と野望(6)「降着制度」に意見申し立て

20150521m

 レース選択にも両者の強い信頼関係がうかがえる。

「昨年、松田師がハープスターを8月の札幌記念(GII)に使ったのは、明らかに(10月の)凱旋門賞(フランス・GI)をニラんでのもの。洋芝の札幌競馬場で古馬相手に好走できれば(凱旋門賞の舞台である)ロンシャン競馬場でもやれると思っての参戦でした。そして実際にゴールドシップを負かしたことで、行く決心がついた。レース後、『あとは勝己さんと相談して』と、うれしそうに言っていましたが、もちろん勝己さんも『ぜひ行きましょう』と二つ返事。2人の心は一致していました」(競馬ライター)

 美浦の堀調教師といえば、ノーザンファームの寵愛を一身に受けていることで有名。引退した騎手を調教助手として多く抱えている厩舎ゆえ、馬の仕上げには定評がある。それは栗東・吉田直弘厩舎から転厩してきたモーリスの活躍ぶり(転厩後3連勝)を見れば一目瞭然。競馬記者の間で「どうして凡走を繰り返していた馬があんなに変われるのか」と驚きの声が上がったほどである。

 確かな腕の持ち主だから、ノーザンファーム生産の評判馬が毎年何頭も入厩してくる。今年の皐月賞(GI)を圧倒的な強さで勝ったドゥラメンテもその一頭だ。

「逆に言えば、ノーザンファームとの関係が薄い弱小厩舎などは、経営が苦しくなっている現状もある」(厩舎関係者)

 との声もあるが‥‥。

 こうして生産者、調教師、騎手の関係が高いレベルで絶妙に保たれているからこそ、ノーザンファームは強いのだ。

 さらにその影響力、発言力はJRAそのものにも及んでいる。

「降着制度が海外と同じ基準になったのも、社台サイドの『いたずらに降着させるのはいかがなものか』という意向が通ったからだと聞きます。でも、もとを正せば、社台の馬同士が起こした降着騒ぎ(10、12年のジャパンカップ)が発端。何ともおかしなものです」(馬主関係者)

 もはや日本国内では独走状態。今後の目標はズバリ、世界一になることだ。それは勝己氏も明言している。具体的には、世界の主要大レースに勝利すること。

 凱旋門賞、キングジョージ、ブリーダーズカップ、ケンタッキーダービー、ドバイワールドカップ‥‥。

 振り返れば、ノーザンファームの世界の大レース制覇の始まりは06年のメルボルンカップでの、デルタブルースとポップロックのワンツーフィニッシュ。オーストラリア最大のレースを日本馬が制したことで、現地では大きな話題となり、これを機に、日本からのオーストラリア遠征が頻繁になっていった。

 勝己氏の長男・俊介氏は、海外挑戦をしていくことを約束したうえで、こう断言している。

「日本のいちばん強い馬がいちばんいい状態で行けたら、(凱旋門賞にも)絶対に勝てると思っています」

 社台グループは3人の兄弟(吉田照哉氏、勝己氏、晴哉氏)による3つのグループから成り立つが、ともに60歳を過ぎている。そのため、息子たちにビジネスに関する諸々の事柄を学ばせている最中だ。この帝王学継承がうまくいくかどうかで、今後の社台、そしてノーザンファームの行方も決まってくるだろう。

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