警視庁の方針転換により、猛威を振るった新宿・歌舞伎町の“ぼったくりビジネス”は鎮静化しつつある。しかし、完全に殲滅されたわけではないようだ。何せ、ぼったくり店の元従業員は反省の色を見せることなく、大放言を繰り返しているのだから‥‥。
「だいぶ稼がせてもらいましたよ。もちろん、普通のお店の従業員よりも、俺たちのほうが給料も高かったしね。警察の摘発で店は閉まってしまったけど、完全になくなるわけがない。まだ復活のチャンスはあると思っていますよ」
こう話すのは、加村オサム氏(仮名)。歌舞伎町のぼったくりキャバクラの元従業員だ。筋骨隆々ながらも、加村氏の表情には幼さが残る。それもそのはず、まだ20代前半の青年で、2年ほど前に求人誌を見てぼったくりキャバの従業員となり、数週間前まで無慈悲に高額請求を強要していたのだ。
この6月から警視庁が歌舞伎町のぼったくり対策に乗り出し、1カ月半の間に13店舗を摘発。そのあおりを受けて、次々とぼったくり店は閉店している。加村氏が勤めていたキャバも、その閉店した店の一つだ。
にもかかわらず、悪びれることもなく、加村氏は自慢げにこう話すのだ。
「ピン(1人)の客なら8割、団体だと3割は、店内で支払わせていました。残りの客も最初は沸く(抗議してくる)から、交番前まで行きますけど、朝10時までにはキッチリ回収していました。何で10時かというと、地方銀行のATMが開く時間なんですよ」
不敵な笑みを浮かべながら、地方から上京した客をカモにしてきたことを告白する加村氏。6月まで毎夜、交番前で被害者と従業員が払え、払わないの口論が繰り広げられていたが、その場に加村氏もいたのだ。
「民事不介入って言うんですか? 警察は暴力さえ振るわなければ、介入してきませんでした。だからといって、最初から最後までガンガン攻めても回収できない。コツがあるんですよ。これは10時間も客と交渉していると、必ず客が疲れてくるタイミングがあり、そこでこっちから世間話をしたり、温情をかけたりするんです。それでもダメなら、割り引きをしてあげる。そもそも盛ってある金額なんだから、多少の割り引きは問題ないし、逃げられるよりはマシですからね。それで99%は回収ですね。最後には仲よくなって握手して、『また来るよ』って、帰っていきますね」(加村氏)
もちろん、また懲りずに来店した客はいないという。被害者からすれば、仲よくなったのではなく、根負けしただけだろう。そこまで従業員が粘るのには理由がある。
「回収までが仕事ですからね。俺たちの給料って、固定給+歩合なんです。固定給は日給1万で、歩合は回収した金額の1~3%、回収に当たった従業員の人数によってパーセンテージは変わるわけですけど、それは粘りますよ」(加村氏)
加村氏が勤務していたキャバは一晩で最高500万円以上の売り上げがあったという。そこから換算すれば、従業員は1日で5万円前後の収入を得たことになる。変動はあるだろうが、バカにならない金額だ。
この暴利を貪る“ぼったくりスキーム”は誰が考案したものなのか。加村氏によれば、歌舞伎町にはいくつかのぼったくりグループが存在し、その配下に複数の飲食店がある。そのグループのリーダーが元締めとして考えだしたものだという。ゆえに、手口はグループごとに異なる。とはいえ、どの手口も大差はない。
セット料金は客引きの「1時間4000円」という誘い文句どおりなのだが、それ以外の名目で高額な請求をされるのである。名目はさまざまで、キャバ嬢のドリンクオーダー料や会員登録料、テーブルチャージにキャストチャージなど。そこにTAX58%加算ということもある。あっという間に1時間ウン十万円となる仕組みだ。
東京は、ぼったくり防止条例があり、料金明示が義務づけられているが‥‥。
「メニューを見せないこともありました。どの店も客とのやり取りはICレコーダーで録音しています。客に聞こえないところで『当店のシステムは‥‥』とか『ご了承いただきました』という、こちらの声を吹き込んでおく。音声としては料金説明しているということになるから、強気で払えと言えるんです」(加村氏)
証拠を捏造するというこずるさにはあきれるが、加村氏は暴利を貪っているのは客引きのほうだという。そこで、歌舞伎町の客引きに聞いてみた。
「うちらのギャラの相場は連れていった客が払った小計(税抜き金額)の30~50%。こっちは迷惑防止条例違反なわけだから、それなりにもらわないとね。確かに、ぼったくる側も悪いけど、客もどうかというのがいるんだよ。『1時間3000円』でアレもコレも付けろとかムチャな注文されると、そんな店はないわけだから、ぼったくり店に入れるしかないよね」
とはいえ、前述したように、6月以降は警視庁の方針転換でぼったくり店は激減。歌舞伎町でのぼったくり被害の110番件数も着実に減少している。加えて、東京弁護士会が「ぼったくり110番」を開設するなど、ぼったくり包囲網が整備されているのだ。
歌舞伎町ガイドブックを発行する「歌舞伎町コンシェルジュ委員会」事務局長の寺谷公一氏がこう言う。
「ぼったくりが割に合わないことは、ぼったくり店の経営者たちもわかり始めているはずです。何より長期の営業ができないわけですからね。それは当局の摘発のせいだけでなく、町の自浄作用も働いています。歌舞伎町で生きる人にとって、ぼったくりは迷惑でしかない。そのため、私のもとに、ぼったくり店の情報が逐一入ってきます。周辺のホテルに、ぼったくり店が入居するビルを記した地図を配布し、ビルオーナーにも悪質な店と契約しないよう働きかけています。もちろん、ぼったくりがゼロにはならないでしょうが、不活性化はできます」
歌舞伎町だけではなく繁華街には危険が潜む。男たちは甘いささやきには毒があることをユメユメお忘れなく。