週刊アサヒ芸能では今年に入って新宿・歌舞伎町のボッタクリ被害について幾度も報じてきた。と同時に、「客引きについて行ってはいけない」と警鐘を鳴らし続けてもいた。だが、不覚にも記者がそのワナに‥‥。
6万2420円──。
レジで店員に掲示された伝票を見て言葉を失った。20分ほどの滞在で水3杯しか飲んでいない。明らかに常軌を逸した額だ。
「これボッタクリでしょ」
抗議すると、レジ係の男性は落ち着いた声でこう言い放った。
「正当な請求ですよ」
鋭い目つきの従業員が、テーブルの上に置かれていた料金表を持ってくる。その隅には小さく、「セット料金に別途チャージがかかります」とある。
伝票には、2名分のセット料金1万2000円に、心当たりのない焼酎代とウイスキー代が加算され、テーブルチャージ、ミュージックチャージ等が各10%、さらに40%のサービス料が計上されていた。
「現金がなければカード使いますか? 手数料20%いただきますけど」
店長を名乗る男が横から顔を出す。振り返ると、それまでいなかった4名の従業員が、出口を塞ぐように立っていた。
記者仲間とその店を訪れたのは5月中旬。客引きからこう声をかけられたのがきっかけだ。
「相席ガールズバーどうですか? 素人との自由恋愛をサポートする場で、今なら3000円でいけます」
だが、案内された店はどう見ても普通のキャバクラだ。客は他にいない。不安になって席についた女の子に、「ガールズバーって聞いたんだけど」と尋ねるが、「う~ん‥‥入ったばかりで」と歯切れが悪い。
一緒に入店した記者仲間が耳打ちしてきた。
「どうも怪しい。酒はやめましょう。水だけで」
女の子が水割りを作ろうとしても待ったをかけた。だが会計時には、
「テーブルの酒、減ってるんだけど」
と難癖をつけてきた。すぐ横では、従業員の一人が携帯電話で聞こえよがしに、
「払わない客がいてさ、店まで車回して」
と、拉致をほのめかす。
「警察への通報」を口にしても効果ナシ。
「呼ぶならどうぞ。違法なことはしていない」
結局、最初に掲示された額の約3分の1を支払うことで落ち着いたが、約1時間の料金交渉中に味わった恐怖はしばらく脳裏から離れなかった。
かつて歌舞伎町でボッタクリ店を経営、現在は作家の影野臣直氏が解説する。
「00年に制定された、ぼったくり防止条例の影響が大きい。料金を大げさに安くうたわない、客を脅さないなど、ガイドラインを最低限守っていれば摘発されないとタカをくくる店は少なくない。悪質店舗にとって、合法性を主張するためのいい口実に使われている」