スキンヘッドは店に連れ戻され、店内で豹変した影野氏におびえている。
「どうする気だ!? 飲み代を踏み倒して。金がないのか?」
アヤカは金を持ってると合図をくれる。アヤカは影野氏の仲間だが、この場ではスキンヘッドの連れだ。しかし、影野氏は次の瞬間、すさまじい形相でアヤカをにらみつけると、アヤカの髪を引っつかみフロアに転がした。
「コラァ! 金を払う気がないなら、この姉ちゃんをソープにでも沈めるか!?」
さらには膝をついたまま上体を起こしたアヤカの太腿を思い切り蹴とばす。
「キャア~、痛い! ワ、ワタシ、何にもしてないじゃない!」
泣き声で叫ぶアヤカの姿に、スキンヘッドがようやく口を開く。
「やめろ! その子は関係ない」
芝居とはまったく気づかないばかりか、彼女に気がありそうな様子だ。
「客に直接手をかけないで、連れの女(キャッチガール)に暴力を振るって威嚇するのはキャッチバーの常套手段だよ」(影野氏)
案の定、スキンヘッドは降参した。
「わかった! 金は払うから、その子を離せ」
スキンヘッドはれっきとした「坊主」だった。しかも法事の帰りらしく、「お布施」と書かれた分厚い封筒をカバンの中に持っていた。
この夜の坊主の支払いはこうだ。飲食代が18万。傷つけたテーブル代5万とイスが2脚で4万。その運搬用のレンタカー代が3万、運搬作業のバイト代で2万。ガソリン諸経費にも1万。穴をあけた壁の修理代に10万ほど、それに消費税。ケガをした従業員の治療費、休業補償、店の迷惑料で100万。総額148万を払った坊主はすっかりしょげて、まだキャッチとも気づかずにアヤカと始発の駅に向かったのだった。
「ボッタクリは最後が大事で、いちばん難しい。ガールキャッチだとバレて警察に連れて行かれたら元も子もないからね」(影野氏)
女帝・アヤカはもめることなく駅前近くの路上でサラリと別れた。この一件でのアヤカの取り分は46万6000円だった。
笹川伸雄(ジャーナリスト)