いや、武包囲網は外国人だけにとどまらない。目下、JRAは海外や地方から積極的にスター騎手を迎え入れている。その結果、若手の騎乗機会は激減し、デビューを果たす新人騎手の数も右肩下がりに転じている。背に腹はかえられず。ジリ貧に追い込まれつつある日本人騎手にとって、武はもはや「聖域」ではないのだ。
天才ゆえに抱え込む内外の敵──。実は実生活での個人的な悩みも含めて、長年そんな武を人知れず支え続けてきた男がいる。競馬学校の同期生であるもう一人のスター騎手、エビショーこと蛯名正義(46)だ。
現在、武はJRA騎手会会長、蛯名は同副会長を務めている。「西の武」に「東の蛯名」。両雄を知るベテラン競馬記者は、2人の知られざる「友情秘話」を次のように明かす。
「ユタカがタレントの佐野量子(47)と結婚して間もない頃の話です。結婚前年の94年から中央と地方の交流レースが始まり、ユタカも南関東の大井などでよく騎乗していたんですが、『あのユタカさんがせっかく来たんだから』ということで、開催が終了した夜は地方の騎手にユタカを交えた宴会がよく開かれていた。ところがユタカは宴もたけなわになると、決まって自分の飲み代だけをテーブルに置き、フイッと帰ってしまうというんです」
この記者によれば、その後、宴会に参加した地方騎手らの間から「飲み代はユタカさん持ちだと思っていた」「中央であんなにたくさん稼いでいるのに」といった声が広がったのだという。そして、この不名誉な風評が、親友の蛯名の耳にも入ってきたというのだ。
「蛯名がユタカにそれとなく理由をただしてみたところ、どうやら『カミさんに財布の口をガッチリ締められちゃって』ということだったようです。ユタカは、『たまには東京でゆっくり羽を伸ばして息抜きしたい』とも漏らしていたようですが、新婚ホヤホヤの妻としては、遠征先での夫の行動が心配だったんでしょう」(前出・ベテラン競馬記者)
事情を知った蛯名は、さっそく親友のために一肌脱いだ。なんと、武を関東に誘うべく、みずから武のエージェント役を買って出て、昵懇にしている調教師や馬主に掛け合い、関東での武の騎乗馬探しに奔走したというのだ。ベテラン記者が続ける。
「ユタカの乗り馬がなかなか見つからない時は、東京や中山で行われるメインの重賞レースも含めて、自分が騎乗予定のお手馬まで回していた。そして日曜の最終レースが終わると、馬主などのタニマチらをユタカに引き合わせたりして、東京で夜の息抜きを楽しんでもらったというんです」
実は、「豊が財布の口を締められているらしい」との噂は、専門紙をはじめとする競馬マスコミの耳にも届いていた。そのため、結婚祝いを名目に小遣い代わりのご祝儀を手渡し、武に恩を売っておこうとする社もあったというから驚きだ。