珍しく憤りの言葉を吐くほどの「包囲網」──。「1番人気馬と天才」の組み合わせは、歴戦の外国人騎手にとっても最大の脅威だったのだろう。ぬきんでた実力ゆえに敵の多いNO1騎手のよき理解者は、同期のスター騎手だった。そこには人知れず天才を支えるキズナが‥‥。
「意味のわからない絡まれ方をされて‥‥。あそこでムダな脚を使ったのが全て。絡んできた2頭は15着、16着だからね」
12月6日、中京競馬場で行われたダートGIのチャンピオンズC。1番人気のコパノリッキーとともに脱鞍所に引き揚げてきた武豊(46)は、口をとがらせながら、不快感もあらわにこう怒りをぶちまけてみせた。
問題の「事件」は1、2コーナーで起きた。コパノリッキーは逃げが身上。ところがスタート後、隊列が整い始めたところで、2人の外国人騎手、ボウマンとパートンがハナを奪った武に競りかけ、レースはコパノリッキーにとって致命的な流れに。結果、直線半ばで失速したコパノリッキーは無念の7着に沈み、漁夫の利を得たデムーロ騎乗の穴馬サンビスタの「ズボ差し」が決まったのだ。
実際、同レースの2ハロン目のラップは10秒7と極端に速く、
「1000メートルの通過時計も、前年より2秒1も速かった」(専門紙トラックマン)
しかも競りかけた2頭はしんがりとブービー。武がいみじくも指摘したように、異常で意味不明な展開だったのである。トラックマンが続ける。
「表立った批判などしない人なのに、レース後に武があんなコメントを口にするのは異例、珍しいことだと思います」
さっそくネット上には賛否の書き込みが相次いだ。いわく「デムーロを勝たせるため、外国人騎手らの間で談合が行われていたのではないか」。あるいは「1番人気の逃げ馬が標的になるのは当然。勝負師としてはいささか未練がましい」。
もっとも、差し馬や追い込み馬は他にもおり、デムーロだけが展開に恵まれたわけではない。また、武自身も怒りの弁に続けて、「まあ、勝負だからしょうがないけど」と、その場を締めくくっている。
ただし、「世界の武豊」と称される天才ゆえ、外国人騎手らの間で「ユタカ包囲網」が、ひそかに形成されていたのは事実のようだ。競馬サークル関係者が指摘する。
「ユタカさんは『外国人騎手がもてはやされているけど、うまい外国人ばかりじゃない』ということを何度か口にしている。馬主の会報でも同様のことを語っており、この発言は外国人騎手らの耳にも入るでしょう。彼らも世界を股にかけている勝負師ですから『よし、上等だ!』となるのはむしろ当然でしょう」
この関係者によれば、「馬群を強引に割る」「他馬を張り飛ばす」など、インターフェアと呼ばれるラフプレーを外国人騎手に仕掛けることができるのも日本人騎手では武ぐらいであり、それがまた彼らの闘志に火をつけているというのだ。