ゴミとして処分されたはずの冷凍ビーフカツが廉価で転売され、堂々と一般消費者たちの胃袋へと運ばれていく。そんな「食の安全」を脅かす不測の事態は、なんと氷山の一角にすぎなかったのだ。かくも「ゴミ食品」であふれ返った美食の国・ニッポンの暗部を気鋭のジャーナリストがえぐり出す!
東京近郊に店を構える個人経営のスーパー店主は、
「鶏肉の解凍すり身、ミートボールは、賞味期限前日は1~2割引き、期限当日は半値にします」
と話す。いずれも真空パック入りで通常は250~300円弱で売っているという。いかに値引きしようと、それは店の勝手である。しかし、よくよく聞いてみると、「賞味期限」も勝手に設定されている。
「期限当日に半値にしても売れ残ることがある。その時は再冷凍して、適当な時期にまた店頭に出します。(賞味期限を打ち込んだ)シールは簡単に張り替えできるから。それを繰り返していると、本来の賞味期限なんて忘れてしまう。半年オーバーは当たり前。真空パックだから、雑菌繁殖はないと思うんですがね」
元をたどれば、これらの品々は大手スーパーで売られていたものだった。なぜ、それが東京近郊の店に流れたかというと、そもそも廃棄食品だったからだ。
スーパー業界には「3分の1ルール」と呼ばれる取引形態があり、これも勝手に定められたものだ。つまり、賞味期限が3カ月の場合、その3分の1(1カ月)を過ぎた商品は店に納品できない。また、ルールどおり1カ月以内に納品しても、賞味期限まで3分の1を切った商品は売り場から下げる決まりになっている。
先の店主は、
「こんなバカバカしいルールがあるおかげで店がなんとか経営できている」
と苦笑いしながら話す。
「業界ルールから弾き出された商品は、返品されるか廃棄の運命。品質に問題がなくてもゴミ扱いだ。そうしたゴミ食品が、産廃(産業廃棄物)業者から食品業者、卸業者へ流れ、最後は、うちのような個人経営の店に持ち込まれる。大手スーパーが300円弱で売っていた鶏肉のすり身を『50円でどう?』と言われれば当然、飛びつきますよ。賞味期限が1日でも残っていれば、なおさらだ。その1日はシール張り替えでどうにでも引き延ばせるから」(前出・スーパー店主)
商品には原材料名や内容量、保存方法などが入った表示枠がプリントされているが、賞味期限にかぎって「枠外記載」とあり、これが店主の言う「シール張り替えでどうにでも引き延ばせる」抜け穴になっている。
釜揚げうどん、煮込みうどんなども同じ手口で賞味期限をすり抜け、本来ならゴミとして処分すべきものが店頭に堂々と並んでいる。やはり表示枠の賞味期限は「枠外記載」となっている。それらの商品を小売店に納品している卸業者はこう話す。
「大手スーパーの廃棄うどんを付き合いの長い食品会社が買い取り、それを正価(230円)の10分の1で仕入れる。卸値はその2~4倍。賞味期限が切れて1年以上過ぎたものも扱っているよ。もともと冷凍うどんではないが、それを冷凍にすれば2年くらいは問題なく食べられる。20年以上前から廃棄うどんを扱っているが、クレームは一度もないからね」
廃棄うどんの素性を、小売店に明かす場合と明かさない場合があるという。
「取引が長い店にはちゃんと説明して納得してもらう。そうした店には仕入れ値の2倍で卸し、4倍で卸す店には廃棄うどんであることは内緒にする。その代わり、業界の“3分の1ルール”から外れたもので、『賞味期限まで1カ月近くあるから』と言うと、間違いなく仕入れてくれる。それまで売っていた大手スーパーの名前を言えば、逆に喜ばれるよ」(前出・卸業者)