球界では、グラウンド外でも賭け事は常習化していたようだ。
「麻雀やゴルフも当然賭けとった。もちろん、よく知られたほとんどの選手がや。他にも、株札を使った『かちかち』っていう賭け事はやっとった」
野村氏によると、参加者に2枚の手札を配って、その組み合わせで勝負するゲームとのこと。カードには1~10の数字が記載されている。いわば、トランプの「ポーカー」のようなものである。
「1回の参加料は1万円やった。これを何回も繰り返すんや。気づいたら場に札束の小さな山ができてた。1日で50万~60万円勝つなんてよくある話や」
金への感覚が麻痺した選手たちによる球界のギャンブル汚染。こうした“遊び”が蔓延するのは本人の弱さが根本的な原因だが、巨人においては責任の一端が球団にもあるのではないかと野村氏は言うのだ。
「俺がオリックスにおった頃は一部選手以外、野球道具は全部自腹や。バットなんてポンポン練習で折れるからたまったもんやないで。借金してまで野球道具を買う。それでクビになったら莫大な借金しか残らへん。こんな選手がたくさんいたわ。こうなると1回10万、20万は魅力的なんや」
一方、巨人では全選手に野球道具が支給されていたため、そうした心配も無用に思えるのだが、逆に賭けの“軍資金”が用意されるような状況だったという。
「どの球団でも試合に勝つたびに数十万の報奨金が出てたけど、巨人は他に比べて多かった。常に100万円はあった。それを一軍選手で分配するんや。おまけに、優勝争いとかの時期になると、最大で数百万円の『特別賞』も加わる。もちろん『個人賞』もあるよ」
数百万円の報奨金は、まず投手と野手で分配される。その後、投手は登板の有無にかかわらず一軍投手で均等に分けるが、野手は活躍に応じて配布していたという。
「分配する時、清原は『何で投手は出てないヤツにも配るんや。試合に出てた選手だけにせんと、取り分が少なくなるやろ』とボヤいとったわ」
清原被告と同様の不満を漏らす野手は他にも存在したようで、徐々にチーム内に不穏な空気を生み出すことに──。ついには当時一軍の中継ぎ投手が不動のレギュラー野手に対し、
「お前ら、どれだけ(金を)もらったら気が済むんや」
と、怒りをぶちまける姿を野村氏は目撃したという。まさに金で野球選手のモラルが失われていく瞬間だった。