飢えた軍幹部が食料を懇願
ところで北朝鮮国内は、食料不足が尋常ではない。複数の脱北者が韓国にもたらした情報によると、北朝鮮中部にある穀倉地・黄海南道で、かなりの数の餓死者が発生しており、「食べ物を求め、町をさまよっている人をよく見かける」という。穀倉地帯で食糧難が発生するのは、
「この地域の人間は農業しか知らないのに、政府が農作物をほとんど上納させるので、自分で稼ぐ方法を知らず、飢えるしかないからだ」(脱北者の男性)
北朝鮮は大規模水害に見舞われた90年代を「苦難の行軍」と呼んでいる。極端な食料不足で、餓死者が200万人も出たとも伝えられている。なのに指導者が食料確保よりもミサイルや核開発に血道を上げているため、飢餓の消息は広がる一方である。
前出・総連関係者が声を潜めて明かす。
「地方の軍幹部からは連日、中央の朝鮮労働党と海外代表部に『飢えをしのぐために、何でもいいので支援してくれ』との悲痛な訴えが相次いでいる。一部の幹部は、中国で商売している人たちに『稲やトウモロコシの種子をこっそりと持ってきてくれ』と要請しているといいます」
しかし、公には餓死の話はできず、軍幹部らは、
「苦難の行軍どころか、今は『苦難の超行軍』で、経済崩壊も間近だ」
と、ささやいているという。
食料不足解消のため北朝鮮は今年3月、核実験やミサイル発射の一時停止を条件に、米国から栄養補助食品24万トンの支援を受けることで合意していた。栄養補助食品とは、子供や妊婦向けのビスケットなどで、長期の保存が利かず、軍人の食料にしにくいものだ。
ところがこの合意直後に「人工衛星」の打ち上げを発表。米国側は再三にわたって「合意違反」を通告したものの、発射が強行されたため、栄養補助食品の提供は宙に浮いている。
韓国は以前から北朝鮮に人道支援をしているが、南北の対立を反映して、その額は毎年減少している。
韓国統一省の集計によれば、11年に韓国の政府や民間団体が北朝鮮に送った人道支援は、金額ベースで前年比51・5%減の196億ウォン(約13億4000万円)にとどまり、97年以降、最も少なかった。李明博政権が発足した08年と比べると、実に約6分の1という落ち込みようである。国際社会からの支援も減少し、北朝鮮は自分で自分の首を絞めている状態だが、はたして正恩氏はその現実を理解しているのだろうか。