突飛な言動を止められない
約3年間、後継者としての教育を受けてきた正恩氏は、先の金日成主席生誕100周年記念行事に合わせて、初めて人民、マスコミの前で約20分間の演説を行った。みずから原稿を書いたというその演説は、彼の心を知る大きな手がかりになる。体を揺すり、落ち着きはなかったが、演説のスタイルは祖父にそっくりと評価されている。
演説で正恩氏はそれぞれ17回、金日成主席、金正日総書記の名前に言及したほか、革命(46回)、人民軍(22回)、軍事優先(11回)などの好戦的な単語が頻出している。対して、人民生活(4回)、経済(3回)、産業(2回)など、庶民生活に関連する単語はわずかしかない。
これはすなわち、今後の路線として、金総書記が築いた軍事優先路線を守っていくことを意味する。軍事力に守られた国の安全、安定が優先であり、住民生活は二の次となるだろう。
正恩氏には、自分の若さや未経験に対するコンプレックスがある。
「祖父のような革命伝説もなければ、父のように核開発で列強を手玉に取った経験もない」(韓国の北朝鮮研究者)
しかも、周囲にいる父親時代からの幹部は若くて60代、父親ほど年齢の差がある。だから統治経験が浅い正恩氏は、周囲の言いなりになって物事を進めるのではないかとの見方が多かったが、現実は逆だった。
韓国紙・東亜日報が韓国政府筋の話として伝えたところによると、正恩氏は現実を考慮しないムチャな指示を乱発。幹部らは、正恩氏のコンプレックスを逆なでしてはいけないと気を遣い、うかつに反対意見を出せない状態なのだという。
また別の報道によれば、脱北を阻止すべく、中国との国境で人や物の流れを厳しく規制したため、地方都市は機能麻痺に陥ったという。こんな話も語られている。
「これまで停電の多かった首都・平壌は、金主席生誕100周年を迎え、一日の電力供給時間を最大20時間まで増やした。正恩氏が『全ての発電所を稼働して、平壌市への電力供給を最優先しろ』と指示を出したためです」(前出・北朝鮮研究者)
北朝鮮北部に最近完成した大型の煕ヒチョン川発電所は、電力不足解消の切り札として、正恩氏が期待をかけている水力発電所だ。だが昨年の水害により、設備と資材が被害を受けた。完成、稼働を急ぐあまり、質の悪い部品を代用で使っているという。発電は始まったものの、電圧が不安定で、電力生産も期待の数値は出ていない。韓国のNGO(非政府組織)関係者の一人は、次のように話す。
「これ以上無理をすれば、突然停電になったり電圧が落ちる可能性もあるが、責任追及をおそれ、誰も口にできない状態です」
若さゆえの突飛な行動は、これからますます目につくようになるに違いない。