過激路線を選択した「理由」
しかし、死去した金総書記に代わって最高ポストに就いた正恩氏はどうやら、父親よりも危険で過激な行動に走り始めている。周辺国の反対にもかかわらず、4月13日に「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイルの発射を強行。続いて核実験を行う動きを見せた。
寧辺(ヨンビョン)のプルトニウム施設は6カ国協議での合意に基づいて運転を停止しており、核の製造は止まっている。このため、3回目の核実験は過去2回で使ったプルトニウム型ではなく、初めて高濃縮ウラン型になるとの見方が出ているのだ。もしウランによる核実験が現実となれば、北朝鮮は核兵器の原料となるウラン濃縮技術を獲得し、想像以上の兵器用核物質を保有している可能性が高くなる。
ウランはプルトニウムよりも、爆発に必要な技術が難しくない。あとは核弾頭を小型化し長距離ミサイルに搭載できれば、朝鮮半島から6000キロ離れた米国本土も核攻撃する能力を確保することになるのだ。
韓国に対しては、さらに強硬だ。李明博大統領(70)は、4月15日の故・金日成主席の生誕100周年記念行事で使われた資金について、
「北朝鮮住民の食糧確保に使うべきだ」
と述べたうえで、「“人工衛星”発射は資金のムダだ。北朝鮮は言うことを聞かないだだっ子と同じ」
と痛烈に批判した。
北朝鮮メディアはその李大統領を「ネズミ」と呼び、同国の首都ソウルを「焦土化する」「逆賊一味の絶え間ない挑戦を壊滅させるため、我が革命武力の特別行動をすぐに開始する」と威嚇するなど、エスカレートする一方。これだけ口を極めて韓国大統領を批判したケースは過去にない。
その「人工衛星」は、打ち上げを公開するとして自信満々に世界から報道陣を招いたものの、打ち上げ直後に墜落、あえなく失敗に終わってしまった。平壌市民は「次回成功する」「失敗は成功の母」などと話していたが、平壌を訪問した朝鮮総連関係者によれば、
「本心では皆、かなり失望していた」
「何が何でも失地回復」が核実験の大きな動機になっているのは間違いない。
なぜ新しい指導者は、周辺国を困惑させる過激な路線を選択したのか。その理由の一つは、北朝鮮が今年を「強盛国家」(強くて豊かな国)入りする年としていることにある。経済的な支援を得るため、また国の安全を確保するためには、まず徹底して軍事力を見せつける必要があるのだ。