日本出身力士の久々の優勝、そして次は横綱誕生か、と盛り上がるかに見えた大相撲。だが、五月場所を控えた今、球界、バド界に続き、「闇のベール」が剥がされようとしている。「ダークサイド」を実名告発するのは、かつて角界を揺るがす大スキャンダルの主役となった元力士。「共犯者」でありながら「捜査」を逃れて現役を続ける関取の責任を厳しく追及するのだ。
プロ野球界、バドミントン界と、このところ立て続けに発覚しているスポーツ選手の賭博スキャンダル。かつて相撲界にも大激震をもたらした「野球賭博事件」があった。
10年5月に発覚した、プロ野球の勝敗を対象とした、現役力士や床山らによる賭博。琴光喜、大嶽親方(元関脇貴闘力)=いずれも当時=らが賭博容疑で書類送検され、相撲協会を解雇。この他、賭博開帳図利容疑などで元力士や床山が逮捕される事態となった。その中には、賭博容疑で書類送検されながら、相撲協会からは21人の力士とともにけん責処分を受けるにとどまり、今も大関として現役を続ける豪栄道の名前もあったことは、当時、報道されている。
だが、こと豪栄道ら一部の力士に関しては、こうした処分で終わるのはおかしいのではないか──。
そうした思いを抱き、実名告発をしたのは、押尾川部屋に所属した元力士、古市満朝氏(43)。大相撲野球賭博事件の「首謀者」であり、若貴兄弟とは同期生である。10年6月24日に警察に出頭した古市氏は、琴光喜に対する恐喝および恐喝未遂容疑で逮捕。野球賭博の口止め料名目で、350万円を脅し取ったとされるものだ。その後、古市氏は起訴されて懲役4年6カ月の実刑判決を受け、昨年11月に新潟刑務所を出所している。
古市氏と会ったのは、郷里の大阪府交野市。開口一番、こう語りだした。
「俺は野球賭博では儲けましたよ。でも不思議なことに、賭博では逮捕されておらず、(相撲界を追放された)琴光喜を恐喝したことになっています。琴光喜は俺の携帯電話にはかけてくるけど、それは飛ばしの携帯。琴光喜が胴元の梓弓(元力士、阿武松部屋。賭博開帳図利幇助容疑で逮捕)に野球賭博の勝ち金500万円を請求した件で、しょっちゅう電話してくる。刑事にも言うたんですが、恐喝されたほうが一方的にかけてきて、(飛ばしの携帯には)こっちからはかけられない。それでどうやって恐喝するんですか。俺には琴光喜を恐喝する理由なんかない。琴光喜とのカネのやり取りの念書も残っていて、それは警察にも提出し、コピーも残っている。しかし、警察は俺を逮捕して、恐喝と恐喝未遂で起訴した。結局、恐喝という大きな事件のため、野球賭博という“小さな罪”には目をつぶった。どうしてこんなことになってしまったか。野球賭博(の案件)を入れると、検察は起訴の絵を描けなかった、とあとで警察関係者から聞きました」
つまり、関与した人物が多岐にわたり、検察でさえ複雑な事件の全貌を起訴状にまとめきれなかったというのである。ちなみに、琴光喜や大嶽親方でさえ、賭博罪で書類送検されたものの、不起訴になっている。
古市氏が告発を思い立った動機の一つに、協会追放になった琴光喜、大嶽親方の2人以外にも、野球賭博にどっぷり浸っていた関取が、うまく追及の手を逃れたことへの憤懣がある。そんな博打関取の「捜査逃れは許さない」というのだ。