「歌丸卒業」という「子別れ」ならぬ「師別れ」を経て、晴れて春風亭昇太が「笑点」司会として動き始めた。この記念すべき出囃子を祝して、「12の謎」を盟友・林家たい平、釣り仲間・夢枕獏氏ら当人をよく知る関係者に総直撃。早くも座布団10枚のおもしろい素顔が!
噺家になった理由は?
東海大入学当初、「ラテンアメリカ研究会」に入部しようと訪ねた部室には誰もいなかった。隣室の学生に「こっちで待ってれば」と言われた先が落語研究部。この偶然が、のちの春風亭昇太(56)を産んだ。在学中の高座名は頭下位亭切奴(とうかいていきりど)。
「学生落語大会で優勝したり、『ザ・テレビ演芸』(テレビ朝日系)に漫才コンビ『まんだらぁ~ず』として出場し初代チャンピオンになるなど、ノンプロ時代からよく知られた存在でした」(演芸評論家・高山和久氏)
卒業直前に大学を中退し、五代目春風亭柳昇に弟子入り。八番目の弟子、ということで前座名「昇八」と名付けられた。
得意な噺は何?
最近は古典にも力を入れているが、真骨頂は新作落語。柴犬が飼い主に“犬目線”での愚痴をこぼしまくる「愛犬チャッピー」など、人気の噺も数多い。
「新作をやるのが落語家として自然だと思う」と本人から聞いた、落語に造詣が深く昇太との親交も厚い作家・夢枕獏氏が明かす。
「『古典も昔は新作。先人たちも、自分がおもしろいと思うオリジナルの噺をやっていたはず』と言っていました。昇太さんの新作は“追い詰められていく人”の描写が抜群。テンションが高くて最高におもしろい。新作では当代で一番では」
さすが、新作で一世を風靡した柳昇の弟子である。
「カミカミ王子」の芸風
「昇太アニさんとは同業者の中でいちばん仲よくさせてもらってる」と言う林家たい平(51)は、その落語を、
「マネしようと思っても絶対にマネできません。『春風亭昇太』という人間が前面に出ているのが最大の特徴。だから、おもしろいしうらやましいとは思うけど、同じ噺家としてやられて悔しいとは思わないんですよ」
とベタボメだ。昇太みずから「カミカミ王子」と自虐するほど滑舌が悪いが、小柄な体を大きく動かし勢いよく爆笑をさらう姿は、年齢を経ても変わらずエネルギッシュであり続けている。
落語界きっての“子分肌”
御年56歳だが「笑点」においても“若手感”が強く、童顔も手伝って威厳や貫禄はなきに等しい。「落語家の了見」(小社刊)などの著書があるライターの浜美幸氏は、昇太を「落語界きっての子分肌」と評する。
「あれだけの実力派なのに、舞台裏でもテレビのイメージどおりで子供っぽいところだらけ。大雨の中に傘も持たずに飛び出して『ワーッ!』と意味なく叫んだりするような人です」
たい平はその「子分肌」に隠れた“侠気”を絶賛。
「つい最近、こんなことを言われたんです。『たい平、最近はだんだん周りに意見してくれる人がいなくなってきたから、お前、気づいたことがあったり、俺が天狗になったら必ず言ってくれよ』。すごいアニさんだなってうれしくなりましたね」
浮ついているようで、全然浮ついていないのだ。