ところで正恩が粛清、処刑したのは全て、「正男人脈」につながる人間ばかり。正恩がおびえているのは正男の帰国であり、だからこそ関係者を皆殺しにしたいと考え、それがストレスになっているという。
現在、正恩を支えているのは、国家安全保衛部と党の組織指導部。国家安全保衛部はいわゆる秘密警察で、党組織指導部というのは権力中枢にある組織だ。李教授が言う。
「今のところ、この2つの組織に属している人間は粛清していません。国家安全保衛部の金元弘部長は、正恩の母・高英姫にたいへん信頼されていた人物。金元弘同様、正恩は母親と近かった部下たちは殺していないんです。正日が確立した北朝鮮の体制を支えたのも日成から引き継いだ幹部ではなく、実際には正日の母・金正淑が育てたブレーンだった。正恩もまた、正日が育てた幹部ではなく、母親のブレーンたちに支えられている。国家という名の、その屋台骨を支えてきたのは権力者ではなく、結局はその妻たちだったということ。皮肉にも、それが正恩体制を崩壊させない最大の理由なのかもしれません」
さらには、正恩体制を陰で操る「頭脳集団」の存在があった。明かすのは、北朝鮮の動向に詳しい関係者である。
「今年5月、北朝鮮では36年ぶりに労働党大会が開かれ、3500人の党員が結集しました。この上層部が、政治局常務委員5名(正恩ほか)、19名の政治局員、129名の中央委員であり、彼らが北朝鮮中枢と考えていい。ただ、正恩を除くトップ4名とその下の19名は年功序列で上位にいるだけの人間。その下にいる129名の中で、『頭脳集団』が形成されている。彼らは日成⇒正日の血を引く金王朝の若い王様・正恩を神輿に担ぎ、陰に隠れて北朝鮮を動かしている。今年6月に序列第8位の朝鮮労働党副委員長・李洙〓(リ・スヨン/〓は土へんに庸)が訪中し、中国の習近平国家主席と対等な会談を行ったんですが、国際外交常識を超えたこの会談実現こそ、北朝鮮の『頭脳集団』の実力なんです」
極論すれば、実は正恩は、ただの飾り物にすぎないのだ。北朝鮮は建国以来、中国、ソ連、アメリカという大国の狭間にあって、実にしたたかに生き抜いてきた。一瞬でも気を抜けば、どこかの傀儡国家となっていたかもしれない。だからこそ、
「外務省極東担当者や公安調査庁二部(国際担当)などのOBたちは口をそろえて『北朝鮮の外交能力は天下一品』と評価しています」(前出・北朝鮮の動向に詳しい関係者)
こうして崩壊をまぬがれている北朝鮮と正恩体制。そして「頭脳集団」の神輿で動く正恩が本当の「ハダカの王様」にならないために、どうしても保持しておきたいもの、それが武力と核兵器なのである。