不正な台が混入していることは、単なる従業員レベルでは知りえない。そのホールの店長すら知らないうちに、経営幹部クラスだけがカバン屋と共謀しているケースがよくあるようだ。
そして一段上を行く不正の手口が、先にも紹介した遠隔操作である。裏ロム台を混入するだけでは、客側の運しだいで、どの客に大当たりを引かせるかまではホール側で選択できない。だが、遠隔操作を用いれば、それがピンポイントで可能になるのだ。裏ロムが登場して程なく、その流れが主流となった。
遠隔操作は、別室に設けられたモニターでホールの様子を見ている店のオーナーなどの手で行われる。カバン屋が遠隔操作用の部品を設置した裏ロム台が用いられ、専用のソフトを搭載したパソコンから台へ信号を送ることで出玉を操作できるようになったのだ。
「例えば、転勤シーズンに新規の客が来たら、“引き込んで常連にさせよう”って魂胆で当たりを引かせるわけだ。モニターがチェックできる環境さえあれば、どこでも操作ができちまう。スマホが出だしてからは、電話をかけてる振りで遠隔操作するシステムまで開発されたな」
こうした不正の蔓延を防ぐべく、取締りに当たる警察も、もちろん手をこまねいているわけではない。摘発のためにさまざまな策を講じはするが、それぞれの効果は長続きせず、いたちごっこになるのが世の常だという。
「古い話だと、指輪に仕込んだ磁石で、玉を誘導するなんて手口もあったけど、それが進んで、隠し持った電波発信機で台を誤作動させるなんて手法になった。タバコを吹かしながら台に手をかざせば不自然じゃないだろ? 単純だけど、これがバレっこない。そこで警察は、電波感知器を台に取り付けさせて、不正な電波をキャッチしてホールに知らせるシステムを作ったんだ」
ところが、この警察が開発したシステムが逆に悪用されることになった。
「電波感知器に遠隔操作用の裏ロムを入れたツワモノがいたんだ。髪の毛ぐらい細かい線でロムをつなげる。警察のお墨付きで導入された電波感知器だから、調べられもしない。絶対、捕まらなかったね」
台の裏側にX線を照射してロムに改変が加えられていないか調べる検査に対しては、Bロムにかぶせた鉛板のカバーに正規ロムと同様の柄を入れて隠すという方法も編み出された。こうしておけば、レントゲン撮影された画像には正規ロムの構造が映り込むということになる‥‥。