ハタから見れば、実に不思議な国である。絶対君主が恐怖政治を振り回し、周辺国を挑発するさまざまな暴挙に出る。国民には崇拝を強いつつ、経済状態はメチャクチャ。どうしてこんな独裁国家が生き長らえているのか。その謎に迫ると、意外な理由が見えてきた。
北朝鮮のミサイル発射が続いている。中国が威信をかけた杭州G20開催中の9月5日正午過ぎ、北朝鮮は黄海北道黄州から日本海に向けて中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程1300キロ)3発を同時発射。いずれも北海道・奥尻島沖200キロの日本の排他的経済水域内に落下した。今年に入ってから、北朝鮮はミサイルを連射。2月7日のテポドン(長距離)に始まり、3月10日にスカッド(短距離)2発、18日にはノドンを2発。4月にもムスダン(中距離)3発に潜水艦発射弾道ミサイル1発。5月以降も断続的に13発を発射している。日本をはじめとする、周辺国への明らかな挑発行為である。北朝鮮の動向に詳しい関係者が説明する。
「金正恩朝鮮労働党委員長(32)は金日成総合大学で情報工学を学び、軍に入隊して砲兵指揮(ミサイル部隊)を学んでいる。ミサイル部隊には金正恩を慕う部下が多く、信頼が厚い。発射実験には毎回のように顔を出し、陣頭指揮を執っています」
さらに9月9日、北朝鮮でM5.3の揺れが観測された。今年1月以来、通算5回目の核実験を行ったのだ──。
一方、北朝鮮国内では相変わらず粛清の嵐が吹き荒れている。13年12月にはNO2で叔父である張成沢が処刑され、「以降、100人以上と見られる上級将校や党幹部が処刑されています。一部情報では粛清が数百人に達したとも‥‥」(前出・北朝鮮の動向に詳しい関係者)
最近も立て続けに幹部が銃殺されているが、その理由が「会議中に居眠りをした」「態度が悪い」「姿勢が悪い」といったもの。
飢えに苦しむ国民を見殺しにして、何億円もかけてミサイルや核兵器を開発し、気に入らない幹部を次々と粛清。ストレスからくる過食のせいでブクブク太り、重い糖尿病に悩んでいる。そんな金正恩が動けなくなる前に、あの国は崩壊するに決まっている──。そう思うのも当たり前だろう。ところが、
「確かに崩壊は時間の問題との見方ができる一方、一発逆転、この先何があるかわからないのが、北朝鮮という国なんです」
と語るのは、このほど著書「金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか」(産経新聞出版)を出版した龍谷大学の李相哲教授である。李氏は6000点に及ぶ文献を解析、元CIAや元韓国高官、さらに金正日に授乳したという女性たちを取材。同著では、没後5年を経てもなお、日本をはじめ米中韓を振り回す「死せる正日」の特異性についてつづっているが、
「私は朝鮮族の出身なんですが、かつて北朝鮮は『先進国』で憧れの的でした。共産党の機関紙記者を経て日本に留学していた頃、1930年代に朝鮮半島から中国に渡り、中国共産党の下で抗日闘争に参加した元高官に話(北朝鮮の内情)を聞いたことがありました」(前出・李教授)
その後、上智大学客員研究員として来日した折、韓国元高官の事務所で目にしたのが、膨大な数の極秘資料や各国政府発行の北朝鮮関連報告書だったという。