しばらく沈黙があったあと、今度は元公設秘書が大量の汗を額に浮かべ、大仁田に代わって泣きつかんばかりに何度も頭を下げた。
「会長しかいません。支払いが滞り、マスコミに報道されると議員生命にも関わります。私のほうからもどうかお願いします」
この会合は30分足らずで終了。神長氏が回想する。
「大仁田と秘書の言動からせっぱ詰まった感じは伝わってきましたが、基本的には貸したくないスタンスだったので、その場で即答することはありませんでした」
これには理由がある。
「大仁田はウチの事務所に所属しながら、無断でラジオのレギュラー番組やパチンコ店の営業などの仕事を取り、勝手にギャラを請求して、自分の懐に入れていたんです。事務所にお金はまったく入っていません。しかも事務所からは固定給を月額100万円ぐらいだったか‥‥も払っていたんです。僕が(勝手に仕事を取らないように)言うと『わかりました』と言って、また同じことする」(神長氏)
大仁田の人間性に疑問を抱き始めていた神長氏に対し、会合以降、元公設秘書から頻繁に連絡が入るようになった。その熱意に折れた神長氏は、態度を軟化。
「当時はまだ、助けてやりたいという気持ちもあったんです。ただし、担保が欲しいと言いました。ダイプロが都内に所有していた4階建のビルに抵当権を設定することを条件に、5000万円を融資する契約を約束したのです」
大仁田は元公設秘書を通じ、大仁田本人ではなくダイプロ名義の口座に入金するよう要求してきたという。以降の話し合いは、ダイコーの経理担当者と元公設秘書の間で進められた。だが、ここで想定外の事態が発生する。神長会長によれば、
「この時点で経理担当者もまさか踏み倒されるとは思っていなかったこともあるんでしょう。契約を締結する前に、何かのミスで06年4月末に、ダイプロの口座に5000万円を入金してしまったのです」
ダイコーの経理担当者は、すぐに秘書に契約締結に必要となる金銭消費貸借契約書と抵当権設定契約書を用意するよう求めたが、なしのつぶて。元公設秘書は、次のように釈明した。
「私は何度も大仁田に言いましたよ。でも、自分も(秘書という)弱い立場にあったから、それ以上は言えなかったんですよ。5000万円の融資については、国税も把握していました。『俺は忙しいから、お前が対応しておいてくれ』と押しつけられました」
大仁田は「会社のやり取りだから手続きが面倒なんだ」と言い訳してロクに対応せず、元公設秘書が催促すると「うるさい。黙ってろ」「よけいな口出しをするな」と威圧してきたという。
結局、双方が弁護士を立てる事態にまでこじれたのである。