「女性のほうが強いんです」
小沢一郎が土壇場で持ちこたえたことで、政界は暴風域に突入した。7月2日。
「野田総理の下での民主党は、政権交代を成し遂げた民主党ではない。国民が政治を選択する権利を何としても確保する」
と、小沢一郎を先頭に衆参両院議員約50人が離党し、新党結成に向かった。が、この船出に光明があるのか玉砕覚悟なのかは、まだ誰にも読めなかった。
ドラマにはピエロもいる。離党届に署名した階猛(46)と辻恵(66)が当日になって離党を撤回し、一年生議員の水野智彦(56)などは翌日に民主党役員会に飛び込んで離党撤回を言って、役員たちから拍手され、世間からは笑い者にされた。
このように、男でさえ揺れざるをえない大政党からの離党だ。「小沢ガールズ」と呼ばれる女性議員たちは不安ではなかったのか?
それを尋ねると小沢四天王のもう一人、樋高剛衆院議員(46)は笑って答えた。
「逆ですよ、逆。女性のほうが強いんです。女性議員が男性にハッパをかけたんです。『男のくせにしっかりしなさいよ』って」
そんな気丈な女性議員の中に、秋田選出の京野公子衆院議員(62)もいた。「私は少し変わった性格でね、それまでは小沢さんとは距離を置いていた。だけど、秘書の大久保さんが逮捕された時、私、これはいけないやり方だと思いました。逮捕しますって話は、恐らく首相(麻生太郎)のところに行っていたはずです。間もなく政権を取って首相になるのがわかっている人の秘書を逮捕して陥れるなんて、欧米の首相なら絶対にさせませんよ。
それからは小沢さんの味方で、今度も離党は覚悟してやりました。誰からも妨害はありませんでした」
マスコミは、小沢一郎の離党に冷淡だったが、増税に対する国民の反発は想像以上に強く、小沢新党への支持率は15%に上った。これは、民主党や自民党よりも高い支持率だ。
殺されるか、と思われた小沢一郎に光明がさし始めたのを永田町は感じた。
政界歴45年の大物政治家秘書がこう言った。
「小沢一郎という政治家は本当に不思議な男だ。誰もが、あいつは今度こそ終わりだと思った時にいつも不死鳥のようによみがえる。本当の小沢神話はそれだ」
7月11日、小沢一郎は、新党「国民の生活が第一」を立ち上げた。
300人もの報道関係者の注視の中を、谷亮子(36)、三宅雪子(47)、岡本英子(47)といった小沢ガールズが満面に笑みを浮かべて、党大会会場の憲政会館に入場した。誰の表情にも、かげりはなかった。小沢一郎代表が、「政党名は、国民の生活が第一」、と言うと、会場に大きな拍手が響いた。陰湿な〈小沢殺し〉を払いのけての再出発の瞬間だった。