──そう考えると、小池知事が再び国政に戻って、女性首相を目指すということもありうるのでは?
「そうですね。女性首相はぜひ、実現させたい。ただ、誰がやるか。もちろん小池さんには期待したいですが、現実的にはどうか。東京五輪までのこれから4年間は都知事を投げ出せない。そして、五輪前に任期が切れますから、もう1期やらなければならない。今から8年後に小池さんは72歳になっている。そこから国政に戻ってとなると、簡単な話ではないです。
でも、政治の世界では先のことはわかりません。政変が起きて、小池さんを首相に、という流れができないとも限らない。
一方で、現在、小池さんは毎日、豊洲や五輪の話題で全国的に注目され、ニュースにおける扱いは安倍首相と完全に並んでいる。もしかすると、注目度からいえば、首相というポジション以上の存在感ですよね。その影響力をもって、知事の身分であっても日本全体へ働きかけられることはたくさんあるかもしれませんね」
さて、冒頭のように若狭氏は知事選期間中に「男泣き」する場面があった。それは、7月26日の街頭演説中のことだった。その日、自民党が擁立した増田寛也元総務相の応援に立った石原慎太郎元知事が小池氏を「厚化粧の大年増」と罵った。若狭氏はこのことを取り上げた時に、言葉を詰まらせたのだ。
「小池さんのために泣いたとかいろいろ言われました(笑)。でも、あれは僕なりのちゃんとした理由があるんです。僕は女性の人権問題に関しては、どうかすれば小池さんより思い入れが強い。僕のライフワークでもあるのです。
明治時代から続いてきた日本の男尊女卑ですが、もうそんな時代じゃない。女性が輝くためには、男社会のトゲを一つ一つ抜いていかなければならないんです。それなのに、知事まで務めた方が厚化粧とか女性に対する言葉としてはあまりにもひどいし、それを候補の増田さんが止めることもなく笑っていた。
日本の政治レベルは、まだこんな状態なのかという意味で、非常に悔しいという気持ちがあったのです」
若狭氏が女性の人権問題に取り組むようになったのは、法律家としての経験からだという。
「刑法には、まだ女性蔑視の規定があるのです。例えば、押し入った強盗が続けて強姦をすれば、『強盗強姦罪』が適用されます。これは無期懲役もある重い罪です。ところが、犯行の順番が逆になった場合、つまり強姦を犯したのちに強盗を働いても『強盗強姦罪』は適用されないのです。
強盗、強姦のどちらを先に犯したかによって量刑に違いが出る。犯した罪は同じなのに、おかしいと思うのが普通でしょう。強盗よりも強姦のほうが罪は軽いと捉えられているためで、軽い強姦罪を犯したら、たまたま女性が怖がっているために、つい出来心で強盗を犯した場合は、罪が軽いと見られているということ。
この法律を何とか変えたいと活動していました。そこに、あの発言でしょう。怒りというのか、情けなさが一気に込み上げてきてしまって。むしろ小池さんのほうが受け流していましたね(笑)。でも、僕はいまだに公の場で、あのような発言がまかり通るのは耐えられなかったですね」
──永田町ではまだまだ男尊女卑がはびこっている。その状況は変わらない?
「先にお話しした犯罪に関していえば、法務省に働きかけて、これが実りました。法制審議会で改正される運びになり、来年の通常国会では刑法が改正されるでしょう。
この件も小池さんに話したら、『ぜひ、行動すべき』と言ってくれたのです。小池さんとは女性問題も一緒に取り組んできたという点でも、つながってきました」
-
若狭勝(わかさまさる)=1956年生まれ。80年中央大学卒業。同年司法試験に合格し、検事となる。東京地検特捜部副部長などを歴任し、09年に弁護士登録。14年の衆議院選挙で当選を果たす。
-
ジャーナリスト:鈴木哲夫