芸能

病魔と闘う荒ぶる役者たちの不屈秘話 「第3回・渡瀬恒彦」(3)アクションに代役は不要だ

20161103p3rd

 70年代の東映にとって、渡瀬がいかに貴重な役者であったか──。佐藤純彌監督は、まず「絶対にスタントマンを使わない」という姿勢を評価する。

「兄の渡哲也という存在があって、自分は違う道を進むというのが明確にあった。常に体ごとぶつかっていくし、大部屋の役者たちを大事にしたのも彼ならでは」

 佐藤の監督作では「実録私設銀座警察」(73年)が強烈な印象を残す。渡瀬は復員兵の渡会役だが、やがてシャブ中毒になり、ゾンビのような形相で殺人マシーンと化す。

「あの役作りはすべて彼のアイデア。すごい迫力で、1カットですべて撮り終えたよ」

 渡瀬が数々の映画賞を獲るようになってから組んだ「敦煌」(88年、東宝)でも、偉ぶらずに一歩下がったふるまいであることがうれしかった。

 渡瀬の体を張る演技が高く評価されたのは、主演作「狂った野獣」(76年)である。バスジャックを題材にしたカーアクション物であるが、渡瀬はこの撮影のために、わずか1週間という信じられない早さで大型免許を取得。

 さらに渡瀬は、吹き替えなしで「走るバイクの後部座席に立ち、並走するバスに窓から突入」という難易度の高いアクションも披露した。

 だが、こうした姿勢は死と隣り合わせになるのもまた必然である。脚本家・高田宏治は「北陸代理戦争」(77年)という“いわくつきの1本”を語る。深作欣二監督にとって最後の実録作品となったが、それは渡瀬が転倒したジープの下敷きになり、生死の淵をさまよう大ケガをしたことと無縁ではない。

「この映画はもう終わりかと思ったよ。ヘタしたら渡瀬は死んでいたかもしれない。結局は伊吹吾郎を代役にあて、それまで撮っていた渡瀬の部分が使えないことから、脚本も大きく手直ししたんだ」

 高田だけでなく、深作も責任を感じ、渡瀬の病室を見舞った。麻酔が効いて眠りにつき、目が覚めるたびに深作が枕もとにいた。

「こうなっちゃったから、しかたないよ」

 むしろ、深作を何度も慰めたと筆者は渡瀬から聞いた。こうした気遣いと、反骨のエネルギーが深作や中島貞夫ら多くの監督を魅了した。高田が続ける。

「僕のシナリオだと『実録外伝 大阪電撃作戦』(76年)の渡瀬が光ったね。大阪・明友会事件を明友会側から描き、主演の松方弘樹に対し、筋を通すという部分で内部対立する渡瀬の立ち位置がいい。もちろん、車に引きずられるシーンも、相変わらずノースタントで演じていたよ」

 高田は、主演の渡瀬もいいが、大きな敵にぶつかっていく脇役の渡瀬にこそ真骨頂が見られ、さらに魅力的だと言う。それは、東映そのもののエネルギーを象徴していたからだ。

 現在、渡瀬は手術をせず、放射線治療や抗ガン剤で回復を目指すと報じられた。何度も死線を乗り越えた野獣の魂に、復活の日は必ず訪れるはずだ──。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    なぜここまで差がついた!? V6・井ノ原快彦がTOKIO・国分太一に下剋上!

    33788

    昨年末のスポーツニュース番組「すぽると!」(フジテレビ系)降板に続いて、朝の情報番組「いっぷく!」(TBS系)も打ち切り決定となったTOKIOの国分太一。今月30日からは同枠で「白熱ライブ ビビット」の総合司会を務めることになり、心機一転再…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<寒暖差アレルギー>花粉症との違いは?自律神経の乱れが原因

    332686

    風邪でもないのに、くしゃみ、鼻水が出る‥‥それは花粉症ではなく「寒暖差アレルギー」かもしれない。これは約7度以上の気温差が刺激となって引き起こされるアレルギー症状。「アレルギー」の名は付くが、花粉やハウスダスト、食品など特定のアレルゲンが引…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<花粉症>効果が出るのは1~2週間後 早めにステロイド点鼻薬を!

    332096

    花粉の季節が近づいてきた。今年のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は全国的に要注意レベルとなることが予測されている。「花粉症」は、花粉の飛散が本格的に始まる前に対策を打ち、症状の緩和に努めることがポイントだ。というのも、薬の効果が出始めるまでには一定…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
上原浩治の言う通りだった!「佐々木朗希メジャーではダメ」な大荒れ投球と降板後の態度
2
【高校野球】全国制覇直後に解任された習志野高校監督の「口の悪さ」/スポーツ界を揺るがせた「あの大問題発言」
3
エスコンフィールドに「駐車場確保が無理すぎる」新たな問題発覚!試合以外のイベントでも恨み節
4
「子供じゃないんだから」佐々木朗希が米マスコミに叩かれ始めた「温室育ち」のツケ
5
ミャンマー震源から1000キロのバンコクで「高層ビル倒壊」どのタワマンが崩れるかは運次第という「長周期地震動」