2年前に亡くなった菅原文太が、代表作「仁義なき戦い」よりも愛した映画がある。全10作のドル箱シリーズ「トラック野郎」がそれだ。その栄えある初代マドンナに選ばれたのが中島ゆたか(64)だった。
── 一部で有名な話ですが、もともと「トラック野郎 御意見無用」(75年、東映)は、何かの企画が頓挫して、急ごしらえで作られた映画だったようですね。
中島 そのようです。キンキン‥‥愛川欽也さんが持ち込んだ企画に文太さんも乗って、それが運よく実現することになって。
── 同年の7月に公開されたオールスター大作「新幹線大爆破」が予想外の不振で、逆に低予算・過密日程で作った「トラック野郎」が、倍以上の配給収入となる約8億円を稼ぎ出した。
中島 私も何カ所か舞台挨拶に立ちましたが、とにかくお客さんの熱気がすごかった。公開と同時にシリーズ化が決まったのも、当然だと思いましたね。
── 東映に入社されたのが73年ですから、この映画のマドンナに選ばれた時は、まだ新人の部類ですね。
中島 実は私より先輩の女優さんで決まっていたんです。ところが文太さんも愛川さんも「マドンナにふさわしくない」と反対され、それで私に回ってきたというのが実情で。
── マドンナにふさわしくないほど、私生活に問題があったんでしょうか(笑)。さて、実際にクランクインしてみていかがでした?
中島 撮影所に、あのキラキラしたトラックが並んでいたのはビックリしました。ああいうトラックがあることは知っていましたが、間近で見ると壮観でしたね。
── 満艦飾のデコトラは、あの映画をきっかけに、日本中に増えましたよね。さて「トラック野郎」のマドンナといえば、文太演じる星桃次郎とトイレで出会うのがお約束。しかも、マドンナの顔の周りには星や花がきらめいています。
中島 撮っている時はどんな感じかわからず、完成した映像を観て「ああ、こんな感じか!」と思いましたね。私は新人みたいなものですから、自分の出番がなくても、共演の夏純子さんの撮影など見学に行くようにしました。そこで女優さんの、こう演じるんだというのを学んだ気がします。
── 初代のマドンナは、桃次郎らが憩うドライブインで可憐な笑顔を見せながら、実は恋人(夏夕介)が人身事故で6000万円もの借金を背負っているという設定。ラストは桃次郎らしく、マドンナを助手席に乗せて、恋人の元へトラックで爆走する姿が印象的でした。
中島 ヤケになって「私を抱いて!」と言ったりしていますね。あのまま、桃次郎さんを好きになってもいいんじゃないかと思うシーンですが、でも、そうなったらシリーズは成立しませんものね。
── この翌年に公開された「横浜暗黒街 マシンガンの竜」(東映)では、文太を相手に、ベッドシーンを演じています。
中島 初めての濡れ場でしたね。スタッフの人数もギリギリまで少なくしていただいたんですが、やっぱり、撮り終わったらショックで涙が出ました。今から考えれば、かわいいレベルのベッドシーンでしたけど(笑)。
── 鈴木則文監督も、主演の文太&キンキンも立て続けに鬼籍に入ってしまいましたが、改めて「トラック野郎」はいかがでしたか?
中島 今でも自分で観ることもありますし、DVDも含めて多くの形で映像が残っている。それはいいですよね。女優をやっていくうえで、いい作品に巡り合えたと思います。
── 監督も主演コンビも喜ぶ言葉だと思います。