倉篠氏は数年前に「支払査定医」を辞めたが、いまだ繰り返される保険会社の「不適切な不払い」の実態を把握するため、昨年11月に「がん保険フォーラム」というウェブサイトを立ち上げ、当事者たちの声を集めている。
「これまでは、どうせ保険会社とケンカしても勝てるわけがない、と誰も声を上げなかった。でも、こんなことを繰り返していたら業界の体質は変わりません。最終的には被害者を募り集団訴訟に持っていきたい、それをしない以上、業界の体質は改善できないと思っています」
加入は容易だが、さまざまな理由を付けて保険金を出し渋る保険会社。しかも説明不足を棚に上げ、約款の見落としや身勝手な理屈で不払いにされているとしたら、たまったものではない。では、我々消費者はどんな点に留意しなければならないのか。後田氏のアドバイスを聞こう。
「ガンに備える、と考えないことが大切です。離職するケースなどを想像すると、お金がいくらあっても足りない気がするかもしれません。でも、ガン保険から給付を受けるには、保険料を払う必要がある。そこで、診断給付金が100万円のガン保険ならば、100万円を用意するための一手段と考えます。仮に100万円を持っている人の場合、最もコストがかからない手段は自腹を切ることです。健康保険には、医療費の自己負担限度額を定めた高額療養費制度もあります。保険はあくまでもお金を用意する手段だということを忘れないでください」
後田氏があえてガン保険を勧めるとすれば、定期タイプで診断給付金100万円、そのほかの特約は少ないほどよく、40歳男性なら月々1000円未満のものだという。
「基本、終身のような長期契約は避けるべき。医療や貨幣価値の変化を無視して、変わらない保障が安心というのは、評価というより願望でしょう。だったら目先の保障だけ、と割り切って入り、給付金相応のお金ができた時点で契約をやめるべきです」
ガン保険の中には、一度ガンになっても入れるタイプももちろんあるが、後田氏のこの言葉を聞けば、冷静になるのではないか。
「ガンになったことのある人を歓迎するガン保険があったら、保険料が割高か、保障が少額か、あるいはその両方かと考えたほうがいい。言うまでもなく、リスクが高い人に対して安く手厚い保障を提供するのは無理だからです」
いざという時のために払ったお金だからこそ、しかるべき状況ではきちんと払ってもらいたい。そのためには、やはり消費者が関心と知識を持ち、賢くなるのが近道なのだ。