都内で保険代理業を営む吉田進一氏(仮名)に裏事情を聞くことができた。
「ガン保険には『責任開始日』というのがあり、多くの場合、加入後90日以内にガンが発覚しても保険金は出ません。また、最近はガン治療も通院治療が可能になり、体に負担が少ない放射線治療を受けるケースも多くなりました。80年代のガン保険は診断給付金(ガンと診断されると支払われる保険金)がなく、入院すると3万円、亡くなった時点で100万円といったタイプが多かった。そうした昔ながらの保険契約を継続していると、例えば、前立腺ガンになって入院せず通院治療した方には保険金をお支払いできないのです」
現在、前立腺ガンは通院で治療可能。皮肉にも医療の進化が新たな不払いを生んでいるのだ。また、当然だが、きちんと病歴告知をしないと保険金は出ない。
「ガン保険に入る前には過去の病歴や現在の健康状態を申告しますが、のちに申告漏れが発覚すれば『告知義務違反』となり、保険金は下りません」(前出・吉田氏)
さらに「再発したらNG」というタイプの保険もあるというから要注意。吉田氏が言う。
「5年前にガンと診断され、診断給付金と手術給付金を受け取ったお客様が1年後に再発してしまった。でも『診断給付金と手術給付金は一度』というタイプの場合は、保険金をお支払いすることができません」
これらのことは全て約款に記されているというが、約款を隅から隅まで読んで保険に加入する消費者はまずいない。もちろん保険の営業マンも、必要以上のことは答えない。結局、ガンと診断され保険金を請求して、初めて自分が保障の対象外であることを知る、という事態になるのだ。
ここで昨今頻発している、冒頭のA氏のような「上皮内ガン」を巡るトラブルについて掘り下げたい。
保険によっては「上皮内ガンは不担保」と約款に明記されているが、
「肝心の『上皮内ガンの定義』についての解釈が混乱していて、保険会社が独自に不当な解釈をしたり、医師の判断を悪用したりして、不払いにしていることが少なくない」
と説明するのは、倉篠氏である。少々、難しい医学的説明になるが、
「『上皮内ガンの定義』は学派や時代によって異なります。ガン保険では国際疾病分類-腫瘍学による普遍的な定義を採用しているのですが、そこに示されている『〈1〉上皮内、〈2〉非浸潤性、〈3〉非侵襲性、〈4〉原発部位内』といった要件を無視して、例えば『間質組織に浸潤した大腸粘膜ガン』や『上皮組織内浸潤を示す乳ガン』などを上皮内ガンと偽って不当に不払いにしているのです」