日本人の2人に1人がガンになると言われる時代。ところが、いざという時のために加入したガン保険の支払いを拒否される──。そんなケースがあとを絶たないという。そのカラクリを知れば、不払いトラブルを未然に防ぐことができるのだ。
大手家電メーカーに勤務するA氏(53)は、40代の頃から10年以上、ガン保険に加入。昨年の健康診断で大腸に異常が見つかり、内視鏡手術で切除することになる。医師からは「早期の大腸ガン」と告げられた。A氏が加入していたのは、ガンと診断されると、一時金として100万円、入院1日につき1万円がもらえる、月々の掛金が7000円弱のタイプだった。A氏が憤る。
「ところが、保険会社に連絡すると『お客様の切除した大腸ガンは『上皮内ガン』なので、ご加入のガン保険では対象外となります』と言われ、きちんと約款に書いてあると言うんです。加入の際には一切そんな説明は受けていないし、何のために10年以上も保険料を払ってきたのかと思うと、怒りが収まりません」
国民生活センターにも、こういった「保険請求したら断られた」「事前に説明を受けていない」など、ガンを含めた保険の苦情が毎年1000件前後寄せられるという。
実はこの「上皮内ガン」というのが、ガン保険におけるクセ者であり、大手保険会社の元支払査定医で、「保険会社がひた隠す“上皮内癌の嘘”」(ファーストプレス)の著者である倉篠はるか氏によれば、
「ある腫瘍が上皮内ガンであるか否かは、定義により異なります。本来、『ガン保険の上皮内ガン』とは『局所切除のみで後遺症を残さず根治する軽症ガン』だけのはずですが、実際には臓器全摘や抗ガン剤治療を要する重症ガンまで上皮内ガンであるなどと偽って不払いにする保険会社さえあります」
「生命保険は『入るほど損』?!」(日本経済新聞出版社)など保険に関する多くの著書を持つオフィスバトン「保険相談室」の後田亨代表も指摘する。
「そもそも保険に理屈で入るのではなく、感情で入る人が多い。だから保険の営業マンは聞かれないことについてはしゃべりません。保険に入りたいと思っている人、安心したいと思っている人に対し、そもそもガンは老後に多い病気で‥‥などと確率論を語ったりしても、敬遠されがち。それより『実は友人がこの前、ガンになったんですが、保険に入っていて助かったんですよ』という体験談のほうがずっと効果的です。つまり、保険というのは状況設定やストーリーの力で売れていくものなんです」
保険は他の商品と異なり、試したあとに購入、ということができない。後田氏が続けて説明する。
「保険は試食や試着をして価格相応の価値があるか検討できないのに、手数料などの契約に要するコストも給付金の支払い実績も開示されていない。商品価値を判断する材料は不明なまま、入らないと有事に対応できないと不安を喚起されている。そういう意味では、怪しげな壺などを売る霊感商法と似ていると感じます」
では、保険会社が支払いを拒否するケースを具体的に見ていこう。