約16万7000人の職員の頂点に立ち、「都民ファースト」の旗を掲げる小池百合子都知事。都議会のドンに森喜朗元総理と、どんな大物にもかみつく「イケイケ言動」で、注目度は高まるばかり。だが、今回ばかりは相手が悪かった。「慎太郎潰し」を打ち出したことで、都庁内部が真っ二つに割れてしまったのだ。
「石原元都知事に責任があるのかどうか、あるとすれば東京都に与えた損害の額がいったいどれくらいなのか、その点を明確にしていく」
小池百合子東京都知事(64)が、石原慎太郎元都知事(84)に対して、“宣戦布告”とも取れる発言をしたのは、1月20日の定例記者会見でのこと。豊洲新市場の土地購入問題を巡る住民訴訟に触れ、初めて石原氏の責任を追及する構えを見せたのだ。
「578億円訴訟」と呼ばれるこの裁判は、11年に豊洲の土地を東京都が購入した際、汚染対策費などをまったく考慮しない高値を支払ったことを「違法支出」と断罪、当時の都知事である石原氏に、東京都の購入代金578億1427万8000円を損害賠償として請求するよう求める、というものだ。
東京都側はこれまで一貫して、「石原氏に責任はない」と擁護してきたが、ここにきて方針転換を迫られる形となった。都政記者が語る。
「08年の調査では、環境基準の約4万3000倍のベンゼン、約8000倍のシアンが検出されていたので、原告側の主張も理解できます。ただ、578億円なんて額をとても石原さん1人が背負えるわけがないじゃないですか。はっきり言って現実的ではありません。ただ、築地市場移転問題があまり進展しない現状を考えると、そのうち都民の非難のホコ先が小池さんにも向きかねません。“いけにえ”を差し出すには絶好の機会だったと言えます」
小池氏は冒頭の発言後に、弁護団の見直しを表明。2月3日には新しい弁護団の結成を発表した。
「昨年7月の都知事選において、石原氏は小池氏を指して『大年増の厚化粧』と罵った。その件を今でも根に持っているそうで、都庁の職員の間でも、その意趣返しと見る向きは多い」(前出・都政記者)
私怨絡みもささやかれる「石原追い込み指令」が、都庁内に大きな混乱を招いているという。都庁関係者が内情を明かす。
「この住民訴訟が起こされたのは、12年5月。それから現在に至るまで実務を執り行ってきたのは、都の法務課の職員たちです。彼らは石原氏が責任を追及されることのないよう、準備書面の作成などに尽力してきたのです」
それがトップダウンによって、ゼロからの出直しとなった。複雑な思いを抱えた職員の中には、
「やってられない」
と怒りをにじませる者もいたという。
「法務課職員の約半数は司法試験に合格した法律のプロ。エリート中のエリートで、プライドも高い。行政と民事を合わせて200件以上の訴訟を抱えている彼らにとってみれば、『よけいな仕事を増やすな』という思いもあるでしょう。本音の部分では、職員の意見は真っ二つに割れています」(前出・都庁関係者)
気になるのは裁判の行方だ。2月9日の口頭弁論後に行われた原告側の会見では、弁護団の大城聡弁護士が、
「前回の裁判が昨年の11月17日にあったのですが、その時点での裁判官の心証として、『東京都の主張は、今出されている証拠からは認められにくいのではないか』という話も出ていました」
こう語って、勝利への自信をのぞかせた。一方で、「かつてのボス」をつるし上げる立場に回った職員の胸中は複雑だ。
「裁判に限らず、一連の築地市場移転問題に関して、石原さんに不利に働くような記録を探し出すよう指示を受けた職員もいます。しかし、都の公文書にはそれぞれ保存期間が設けられ、大半は3年で破棄するならわしなので、証拠らしい証拠は残っていないのが実情です」(前出・都庁関係者)
小池氏の目にはそれが「隠蔽工作」と映ったのか、
「ないわけないでしょう、ないわけが!」
と、ある幹部職員の前でイラダチを爆発させたこともあったという。
「よほど頭に来たのでしょう。小池さんは公文書の管理をさらに徹底させる条例案を提出すると見られています」(前出・都庁関係者)
その猛進ぶりから、事態はにわかに「慎太郎潰しファースト」の様相を帯びてきた。