環境基準の100倍のベンゼン検出を受けて、
「非常に重く受け止めなければならない」
と報道陣の取材に応じた小池氏。しかしこの環境基準は地下水の場合、体重50キロの人が70年間毎日2リットル飲んだら、10万人当たり1人がガンになる確率が上がるとされる値である。
値を決めたのは石原氏だが、「(基準の)ハードルが高すぎた」と認めたことで活気づいたのは都庁職員だった。これまで都は豊洲移転に関して、有害物質の目標を「環境基準以下」に設定していたが、これが“足かせ”になっていたのである。
「都では一度決めた方針を覆すのは難しく、豊洲移転は暗礁に乗り上げていた。当の石原氏が認めたことで、基準値そのものを変更することが可能になりました」(都政担当記者)
ようやく平仮名も忘れた石原氏に「全責任」を押しつけ、一気に豊洲移転か‥‥と思いきや、小池氏には舵を切れない事情がある。
「これまで都議会でも『法的には安全』であることを認めていますが、『消費者の安心の確保』を判断基準の“盾”にして、決断を先延ばしにしていました」(前出・都政担当記者)
そもそも豊洲市場で地下水を飲み水や生鮮食品の洗浄に使うわけではない。敷地内は地上と地下がコンクリートで分離され、市場で働く人と接触する可能性は低いため、専門家会議は以前から「地上部分は安全」としている。証人喚問でも石原氏から、
「なぜ豊洲を放置するのか。膨大な補償費を都民の税金で払い、まさに不作為だ」
と批判のホコ先を向けられた。未開場の豊洲市場は、1日503万円の維持管理費が負担としてのしかかっている。それでも方針転換できないのは、実質的に小池氏が率いる地域政党「都民ファーストの会」が、夏の都議選で「豊洲移転」を争点に位置づけているという政治的思惑があるからだ。
「専門家が安全にお墨付きを与えた以上、『安心』の判断基準は知事に委ねられています。ここで安全の『基準値』を変更してしまえば、都議選を戦う材料がなくなる。都民ファーストの会では、豊洲移転を住民投票で決める案も出ているようです」(前出・都政担当記者)
確かに、都議選と「豊洲問題」の住民投票を抱き合わせれば投票率は上がる。無党派層を取り込みたい小池サイドとしては、願ったりの展開となるだろう。ある都議のスタッフが明かす。
「ここまで問題を引き延ばしておいて、その決断を有権者に委ねれば、『職務放棄』の批判にさらされるのは目に見えています。住民投票が実行される可能性は少ないでしょう」
やりたい放題されていた自民党は、小池氏の自縄自縛状態を察して、都議選に向けて本腰を入れ始めた。
「これまでは高い支持を得る小池氏との全面対決を避けてきましたが、融和路線は都議選でプラスに働かないと上層部が判断。対決姿勢を強める方針に変わりました」(自民党関係者)
かくて、反転攻勢の“のろし”はすぐさま百条委員会の翌日に上がった。