【4】“兄殺し”完遂でも「血の粛清」は止まらない
昨年12月、韓国情報機関・国家安保戦略研究院は、「金正恩は体制発足後、党幹部だけで約140人を粛清した」と発表。今回の“ロイヤルファミリー殺し”で、そろそろ粛清も一段落かと思いきや、石丸氏は、
「今後、激しくなることはあっても、収束に向かうことはありません」
と断言する。いわく、経済も外交も一向に良化しない北朝鮮国内では、原因が正恩氏の若さと未熟さにあると考える風潮があり、
「要するに、これだけ粛清が続いた現段階においても、幹部は正恩氏のことをナメている。彼らを従わせるために粛清はやめられないのです」(石丸氏)
国民に強い恐怖心を植え付ける手口は今後とも変わらない。
「公開処刑では観ていた者に『死体に石をぶつけろ』と指示を出すこともあるようです。“死の恐怖”だけでなく、骨や血肉が剥き出しになった、むごたらしい死体をさらし続けることで、国民から抵抗心や反逆心を根こそぎ奪うのです」(北朝鮮ウオッチャー)
“暴君”に支配された国民が不憫でならない。
【5】統一朝鮮は「北が南を吸収」説が浮上
暗殺事件によって、南北朝鮮はそろって大国・中国を“激怒”させることとなった。中国が後ろ盾となっていた正男氏を北朝鮮が暗殺したことが濃厚である一方、「THAAD(サード)」(高高度ミサイル防衛システム)を配備した韓国に対しても、中国で「禁韓令」の動きが広がっているからだ。
極東で孤立する双子状態の両国が接近し「統一」に向かうのか──というと簡単でない。問題は天文学的な金額。韓国統一省は、統一後の10年で5兆~26兆円が必要になると試算している。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。
「89年に、ドイツは政治体制が真逆の東西統一を実現しました。しかし東側のインフラ整備のための公共事業投資や東側の社会福祉などを、西側が賄わなければなりませんでした。統一後の5年間で、70兆円ものカネが西から東ドイツに投資されたと言われています」
統一直前の東ドイツの人口は西の4分の1。対して北朝鮮の人口は韓国の2分の1。国民1人当たりのGDP(国内総生産)は、東ドイツが西の半分だが、北朝鮮は韓国の6%にすぎないと、韓国産業研究員は10年に指摘している。
「この規模からドイツ型の統一は不可能で、韓国を北朝鮮が吸収する統一が最も現実的ということになります」(前出・山田氏)
韓国では次の大統領候補が全て「親北派」ということもあり、北による「韓国吸収説」は現実味を帯びている。