大会前から、わずか10人の部員で甲子園への切符をつかんだことで話題となっていた不来方(岩手)が、いよいよ甲子園初陣を迎える。大会5日目第3試合で東海の名門・静岡との対戦だ。
不来方はこの大会3校目に登場する21世紀枠出場のチームでもある。部員数が少ないながらも岩手県大会準優勝。部員不足に悩む学校が増えるなか、公式戦で好成績を収めたことで、部員少数チームの不利を克服した形となり、これが同時に“選手減少チームへのエール”になると評価され、21世紀枠で選出されたのだ。すでに21世紀枠で選ばれた他の2校が敗れ去っているだけに、是が非でも意地を見せたいところだろう。
選抜の歴史を振り返ると、21世紀枠のない時代に少人数のチームが一般枠で選出され、大会でも快進撃を見せた例がある。最も有名なのが、74年第46回大会に部員11人で出場した池田(徳島)だろう。後に甲子園で名将とうたわれる蔦文也監督に率いられたこの年の池田は“さわやかイレブン”と呼ばれ、あれよあれよという間に決勝戦まで快進撃。最後は強豪・報徳学園(兵庫)の前に1対3で惜敗したが、多くの観衆の胸にその勇姿を刻み込んだのである。
今大会に21世紀枠で40年ぶり2回目の出場を果たした中村(高知)も、今回は部員16人での出場だったが、初出場時の77年第49回大会での部員数は12人。その数にちなんで“二十四の瞳”というキャッチフレーズがつけられた。エース・山沖之彦(元・阪急など)の力投で、みごと準優勝に輝いた。
そして、この両チームよりも少ない部員数、不来方が出場するまで選抜史上歴代単独1位の最少部員数チームだったのが、87年第59回大会に出場した大成(現・海南大成校舎=和歌山)である。真田十勇士になぞらえて“大成十勇士”と称されたこの時の大成は、1回戦で優勝候補の一角とされた東海大甲府(山梨)と対戦。試合は戦前の予想に反して4回裏に先制すると終始先手を取る大成ペースで試合は進み、8回裏を終わって3対2とリード。9回表も先頭打者をアウトにし、勝利まであと2人‥‥だったのだが、ここから「勝ちを意識した」というエース・山本友広が四球を出すと、ライトへのポテンヒットが2塁打となり、犠飛で同点。続くセンター前ヒットであっという間に逆転されてしまった。その裏2アウトから唯一の控えである背番号10の阪上幸信外野手が代打で登場するも三振。勝利は寸前で逃げていってしまった。一方、この試合に勝利した東海大甲府はベスト4まで進出。もし、大成が勝利していたら、まさかの快進撃がありえたかもしれない。
この時の大成と同じ部員数わずか10人の不来方は、甲子園常連校相手に、果たしてどのような戦いぶりを見せるのであろうか。