大会5日目第2試合。いよいよ今大会最大の注目チームが初戦を迎える。大会前までに放った高校通算本塁打数79本。まぎれもなく現在の高校野球界ナンバーワンのスラッガーである清宮幸太郎擁する早稲田実(東京)である。清宮は今大会、キャプテンとしてあの王貞治(元・巨人)がエースで優勝して以来、60年ぶり2回目の春制覇を目指すことになる。
その早実が生んだ名選手で、清宮の前に甲子園大会を沸かせたヒーローといえば、なんといっても“ハンカチ王子”こと斎藤佑樹に尽きる。特に06年夏の選手権決勝での駒大苫小牧との延長15回引き分け再試合。相手のエース・田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)との2日間に渡る投げ合いを制し、駒苫の夏3連覇を阻止すると同時に、早実に悲願の夏初制覇をもたらした熱投は、今もなお記憶に新しいところであろう。
そんな斎藤佑樹が活躍した06年の早実は、実は春の選抜でも延長15回引き分け再試合の死闘を繰り広げていたことをご存知だろうか。
この年の選抜で早実は北海道栄を7対0で降し初戦突破。迎えた2回戦で顔を合わせたのが、プロ注目の好投手・ダース・ローマシュ匡(元・北海道日本ハム)擁する関西(岡山)だった。試合はダースに代わって登板した2番手投手から早実打線が効果的に得点を積み重ね、9回表を終わって7対4と早実がリード。ところがその裏、エラーと連続死球で無死満塁のピンチを招き、ここで相手4番に痛恨の同点タイムリーを浴びてしまう。ここで斎藤は冷静にピンチを切り抜けた。満塁策を取り、ピッチャーゴロダブルプレーと三振でしのぎ、延長戦へと持ち込んだのだ。この後はどちらも譲らず、試合は7対7のまま延長15回引き分け再試合となったのである。
翌日行われた再試合。前日15回を完投した斎藤は先発を回避したものの、早実が先制点を挙げた3回裏からリリーフ登板。2対1とリードを保っていたが、8回裏に斎藤が逆転2ランを被弾してしまう。それでもあきらめない早実は、9回表1死1塁のチャンスをつかむと次打者の打球はライト前ヒットの当たり。するとここで相手のライトがこの打球を後逸し、打者走者もホームへ返り、4対3と再逆転に成功。その裏、斎藤は2死満塁のピンチを招いたものの、最後の打者をキャッチャーファールフライに仕留め、2日間に渡った死闘に決着をつけたのであった。
長い長い甲子園大会の歴史の中で、同一年の春夏で延長引き分け再試合を経験しているのは、なんとこの年の早実だけである。この春、清宮率いる早実は、偉大な先輩を超える名勝負を繰り広げることが出来るのか。必見である。
(高校野球評論家・上杉純也)