5月30日から始まるプロ野球交流戦直前に、不穏な動きが伝わってきた。セ・リーグで間もなくDH制が導入されるというのである。その背後では自軍の利益を追求すべく、あの「球界のドン」が糸を引いていた──。
毎シーズン、セ・リーグ球団の幹部にとって、交流戦が近づく時期は眠れない日々が続く。何しろ、05年にスタート以来、成績では「パ高セ低」状態が続いているのだ。09年を除き、全てパ・リーグが圧勝。しかもここにきて、観客動員を見ても「人気のパ(・リーグ)」と言われる状況が続いている。
セ・リーグ球団の職員が、声を潜めて言う。
「かつては、観客動員面で大きくセ・リーグが引き離していましたが、楽天の参入や日本ハム、ソフトバンクなど地域密着型のフランチャイズ制が功を奏して動員数も大幅にアップ。さらには、日ハムの二刀流、大谷翔平を筆頭にスター選手もそろっていて、今や、人気、実力ともにセがパの後塵を拝するようになりつつあります」
そうした中、セ・リーグ人気回復の起爆剤として検討が進められているのが、DH制の導入。パ・リーグでは豪快な打撃戦が見られるとあって、75年の導入以来、撤回論は一度もない。
「実は、巨人が主導して、各球団に持ちかけているんですよ。もともとは巨人が、実力や人気の格差の原因を分析した結果、DH制にあるとの結論が出たようなんです。打率が上がるほか、試合時間も短縮されるというデータもあり、水面下で画策しているのです」(球界関係者)
実際、パ・リーグはDH制ならではのスター選手を次々と輩出。さらには守備の苦手な“主砲”の活躍も近年、目につくばかり。球界関係者が続ける。
「パでは、必然的にDHを最大限に生かそうというチーム編成になり、多額の契約金で獲得した強力な外国人打者を配置する傾向が強い。さらに、投手陣も強力な打線に対抗すべく、技術が進歩。メジャーで通用しているヤンキースの田中将大やレンジャーズのダルビッシュ有の活躍ぶりを見れば一目瞭然です。また、セでは『走れない、守れない』とレッテルを貼られかねない選手もパでは脚光を浴びています。例えば日ハムの中田翔や西武の“おかわり君”こと中村剛也は、守備につかなければいけないセではここまで起用されなかったでしょう」
かつてはDH制を取り入れない理由を9カ条にわたって公式ホームページにアップしていたセ・リーグが、ついにDH制導入に向けて検討を始めたのは、“二刀流”大谷翔平の登場が大きなキッカケだったという。DH制度に詳しいスポーツライターが解説する。
「大谷というスターが登場したインパクトはセにとって大きな衝撃でした。なぜなら投手と野手を兼ねるという“二刀流”はDH制があるパだからこそ生まれたわけで、巨人や阪神などのセ球団ではそもそも認められるはずもなかったでしょう。読売グループの総帥でもある“ナベツネ”こと渡邉恒雄主筆は、大谷の活躍に地団太を踏んで、側近に『なぜ大谷が獲れなかったんだ?』と詰め寄ったといいます。その時の答えが『セにはDH制がなかったから』だったとか。これには、売り言葉に買い言葉で『じゃあ、セでもDH制度を作ればいいだろ』と鶴の一声で決まったといいます」
近年、巨人はスター不足で、観客動員もジリ貧なだけに、危機感を募らせての発言だったというのだ。