本当の天才、モーツァルトやベートーベンが自分の作った曲に対してどんな気持ちを思っとったんか知りたい。これ完璧やと思ってはんのか、ああこれ、あかなんだ、と思ってはんのか。性格的に楽観的な人とか傲慢な人とかで、満足されている人は周りにもおりますけどね。
せやけど、よう聞いてみたらビビッてますわ。円広志にね、「アンタ自分の作った曲、満足してるか?」と聞いたら「ハイ」と言うんです。だったら「同じ詞に、アンタよりすばらしいアイデアでアンタよりもええ曲を誰かが書くかもしれんという危機感はないの?」と問うと、「あります」と言う。やっぱりあるんです。それを抑えとるだけで‥‥。
もし俺が書いたこの詞で、俺よりももっとええ曲書く人がおるかもわからんという恐怖が常にある。せやからベターではない。締め切りに間に合わせて書いてるから。でもね、絶対に締め切りに間に合わせます。「できませんでした」は絶対ありません。曲が沸いてきませんけど、それでも書く。降ってきて書くというのはアマチュアですわ。錯覚しとるだけの話で。降るワケがないでしょ(笑)。
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キャバレーのショーで演奏していた当時は、無数の曲を書いては破棄してきた。さらに著作権の関係で放送局が音楽を容易に流せなくなった際にはバックグラウンドで流すBGMの依頼も舞い込んだ。「どうでもええから数を作ってくれ」という要望で1日40曲。10日間で400曲を作曲した。
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今はもう非常に少ないですね。昔は1日に7曲作ったこともありますし。今、そんなんやったら死にますけどね(笑)。今やったら何カ月に1曲とか、そんな感じです。
机の前に座って曲を作る時とピアノの前で作る時と両方あるんですよ。ある程度まとまった歌謡曲みたいな時はピアノのほう。
一発のイメージで決めるのはCMに多いですね。そういう場合はピアノが邪魔になるんで机で作るんです。ピアノで作るのは何でかと言いますと、詞がありますね。それに曲をつける。ある程度のストーリーのある詞に限りますが、ピアノに座って書かれた詞の世界に入るためにその詞を見ながらバックグラウンドのピアノを弾くんです。詞の雰囲気の曲をムダ弾きしているワケですね。
それを長いことやってると詞の中に入っていけるような、あるいは詞からこっちに来てくれるような時間があるんです。詞とまずはお友達になる。詩人の書いた情景とか理念とか、向こうの波長に合うように伴奏をむちゃむちゃ弾いてるとだんだんとまとまる。大ざっぱにいえば、そんなやり方です。
キダ・タロー:1930年、宝塚市生まれ。作曲家としてこれまで数多くのテレビ番組やCMソングなどを手がける。代表作に、NHK「古寺巡礼」「生活笑百科」など、作曲した作品は3000を超える。また「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送)の最高顧問としてもテレビ出演中。