東日本大震災の起こった2011年3月11日のいわゆる「3・11」は、第2の敗戦である。東日本大震災、東京電力福島第一原発事故という国難に対し、ソフトバンクの孫正義社長以上に電光石火の果敢な行動と実戦的発信を行ったリーダーが他にいただろうか。「脱原発の旗手」、「100億円の寄付」が耳目を集めたが、孫の本質はそこにはない。
大震災の余震が続き、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の広がりに、全国民が不安を覚えていた11年4月22日、孫は自由報道協会主催の「東日本大震災について」の会見で熱く語った。
「再生可能エネルギーの手法は、全世界で研究開発されています。その援助もしたい。そのいくつかの例を語れば、1つは太陽光発電です。電気は一日中同じように使われているわけではなく、ピークアワー、つまり、ピークで使っている昼間の時間帯と、夜寝ている間あまり使ってない時間帯がある。電気は、ある程度蓄電できますが、それなりの蓄電コストがかかります。太陽が出ている時に、実はもっとも電気を使っているということですけども、このピーク時のコストが一番高いのです。ですから、一番高いところのピークを、太陽光でまかなったらどうかと。しかし、太陽光を一日中使うのではなく、足りないときは石油・石炭を使えばいいのです。曇っている時、あるいは夜中には、貯めていた水力で発電すればいい。このように需給バランスをうまく調整すれば十分それでやれる。そういうことです」
太陽光発電の研究開発、ソーラーパネルの研究開発は、ほんの5、6年前まで世界のトップ5のうちの4社が日本メーカーだった。もともと日本は太陽光エネルギーの先進国だったが、現在、日本メーカーはシャープが3位、京セラが7位、あとは番外だ。その一方、日本の技術を使って、他の国がどんどん太陽光発電で伸びている。特にドイツは、ものすごい勢いで伸びている。なぜ、伸びたか。孫は、続けた。
「太陽で発電したら、電力会社が買い取るからです。余った時だけではなく、全量買い取り義務が、電力会社側にある。2009年のデータですが、1キロワットあたり40円から60円で買い取ります。それも、25年間買い取り続けます。つまり、原子力に頼るのではなく、自然エネルギーのほうヘシフトさせる政府の基本的思想、ポリシーがあった。そのポリシーに沿った政府の促進策のおかげで、電力会社以外の各企業がどんどん発電に回った。国中に太陽光発電が広まった。ヨーロッパの平均でも、1キロワットあたり58円です。平成23年4月25日、全量固定価格買取制度について、政府の算定委員会は太陽光発電による買取価格を、1キロワットあたり42円と示してきました。私たちがかねて消費税抜きで試算した40円以上という数字の範囲内、想定していたちょうどの数字となりました。
ソフトバンクグループとしては、自然エネルギー事業に投じる出資規模は、総資産の1%未満としています。もちろん、プロジェクトファイナンスを行いますので、プロジェクト自体はもっと大きくなっていくと思いますが、ソフトバンク全体の業績に与える影響は、軽微なものです。リスクマネジメントの観点からも、経営の重要性という意味では小さなものです」
この国難の時に情報革命だけやっていればいいのか、それで自分が生まれてきた使命を果たせるのか。それが正義なのか、孫は心底悩み抜いた。
「震災と原発事故で被害を受けられた方々を目の当たりにして、私は自分の非力に一番腹が立ちました。私がドン・キホーテになったところで、政府を動かせるのか。わかりません。ツイッターには『過信しておるのか!』と書かれました。しかし『やらねばいけないことは、やらないかん』と覚悟したのです」
孫は、ソフトバンク子会社のSBエナジーが、今年7月1日、京都市と群馬県に建設したメガソーラーの運転を開始したと発表した。
「今後も、日本企業の採用を優先したいが、海外勢を締め出すつもりはない。メーカーには技術革新で品質や価格競争をスケールアップしてもらいたい」
1日午前に行われた式典で発した孫の言葉は、国内での競争激化を予感させるものとなった。
約8万9000平方メートルの市有地に整備された京都メガソーラーは、京セラがシステム設計や施工などを担当。2基合わせた設備投資額は計12億円。京都府内最大の計約4200キロワット(一般家庭約1000世帯相当)となり、この日1基目が運転を開始している。ソフトバンク子会社のSBエナジーは群馬県でもこの日、メガソーラーの稼働を開始。孫は、年度内に長崎県や徳島県など国内5カ所で稼働する方針を明らかにし、「やってほしい土地があれば増やしたい」とさらなる拡大に意欲を見せた。
「白戸家(ホワイト家)」のCMでヒットを放ったクリエイティブエージェンシー「シンガタ」を経営するクリエイティブディレクターの佐々木宏は思っている。
「孫正義こそ、戦後の高度経済成長期にのし上がったホンダの創設者・本田宗一郎、ソニーの井深大、松下電器の松下幸之助のように、現代の日本を代表する『日本ブランド』の経営者となり得る」