1915年の第1回大会から昨年の第98回大会まで夏の甲子園で飛び出したサヨナラホームランは全部で19本。その中にはサヨナラホームランで勝利し、サヨナラホームランで敗れたという両方の経験をしたチームもある。
まず1チーム目は法政一(西東京)。61年第43回大会1回戦の銚子商(千葉)との試合は1‐1のまま延長戦へと突入。迎えた12回裏に銚子商の2番・柴武利にサヨナラとなるソロホームランを浴びて1‐2で惜敗した。そしてこの柴の一発は夏の甲子園史上で最初に飛び出したサヨナラホームランでもあった。サヨナラホームランで敗れた法政一が、逆にサヨナラ弾で勝ったのがその23年後の84年第66回大会。1回戦で境(鳥取)と対戦したが相手エースの安部伸一の前に9回を終わってノーヒットに抑え込まれていた。それでも法政一はエースの岡野憲優が打たれながらも踏ん張り0‐0で延長戦へ。その10回裏、2アウトランナーなしから法政一の3番・末野芳樹が安部の投じた120球目を強振するとそのままレフトラッキーゾーンへと突き刺さるサヨナラホームラン。なんとチーム初安打がそのままサヨナラ弾となる奇跡を演じたのであった。
2チーム目は帝京(東東京)である。83年第65回大会2回戦で、宇部商(山口)と対戦した帝京は8回を終えて5‐4とリード。だが、9回裏に宇部商の2年生、6番の浜口大作の放った2ランで5‐6の逆転サヨナラ負けを食らってしまう。
この痛恨の一撃は夏の大会史上2本目の逆転サヨナラ弾でもあった。こうして法政一と同様にサヨナラ弾で敗れた帝京だったが、この8年後の91年第73回大会3回戦の池田(徳島)戦では逆にサヨナラホームランで劇的勝利を飾っている。それが6‐6の同点で迎えた延長10回裏に稲元智が放ったサヨナラ2ランだった。
3チーム目は中京大中京(愛知)。夏7度目の全国制覇を果たした09年第91回大会でのことである。2回戦の関西学院(兵庫)との試合は中京大中京が4‐3とリードしていたものの9回表に同点に追いつかれてしまった。だが、その裏、1アウトランナーなしから3番の河合完治が初球を捉えると打球は左中間スタンドへ飛び込むサヨナラ弾となり劇的勝利をつかんだのである。
しかし、この6年後の15年第97回。3回戦の関東一(東東京)との一戦は先発した上野翔太が8回まで関東一打線を散発4安打に抑える力投を見せたが、味方打線も沈黙し、0‐0のまま9回裏に突入。1アウトから相手5番打者の長嶋亮磨にレフトポール際へ運ばれ万事休す。まさに1球に泣いたのであった。
長い長い夏の甲子園の歴史でサヨナラホームランに笑って泣いたのは現在まででこの3チームのみである。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=