この夏、プールや海で遊んだ方も多かったことでしょう。水泳は代表的な有酸素運動のスポーツです。続ければ、体が引き締まって筋力がアップします。もちろん、健康維持やダイエットにも役立ちます。
運動量はランニングと同程度ですが、健康へのリスクは水泳のほうがはるかに低く、水中を歩くだけでも十分に運動になりますので、高齢者の方には特に勧めたい運動です。
先日、ある患者さんから「水泳を終えたあとに目が充血するのですが、目薬をさしたほうがいいですか?」との相談を受けました。そこでお題です。目薬はさすべきか、ささなくてもいいか、どちらでしょう。
充血とは目が出血しているわけではありません。白目にある結膜の細い血管が拡張しているだけのこと。体温よりも低い点眼液を注入することで血管は締まりますが、それは充血を目立たないようにごまかしているだけのこと。「人と会うので充血を抑えたい」ならまだしも、充血は放っておいても確実に治ります。
つまり充血対策には目薬でなくとも、喫茶店の冷たいおしぼりを目頭に乗せるだけでも十分に充血は治るのです。
また、人間は天然の目薬である涙を持っています。通常で1日に2~3ccほど分泌される涙の中にはIgAという免疫物質、ムチンという保護物質、目に刺激を与えるミネラルなどが含まれています。目にゴミが入った時、放っておいても涙が出てくるのは、体がゴミを流そうとするからです。
いわば涙は「完璧な目薬」であり、いちばんいいのは「涙を流すこと」なのです。目薬をわざわざ買うよりも、涙に任せるのが賢いわけです。
目薬などない時代、子供の目にゴミが入った時、母親は母乳で目を流していました。母乳には涙と同じ成分が入っており、しかも体から出た直後の母乳は無菌状態なので、生理食塩水で洗うのと同じぐらい清潔なのです。
目薬を含め、医薬品は「第一類」「第二類」「第三類」と区分されています。一般的に眼科で処方される目薬は、細菌性結膜炎で目ヤニが出て目が開かない、あるいは白内障・緑内障の治療のためなどの効果がある「第一類」であり、薬としての効果も高いのです。しかし、薬局で市販される目薬のほとんどは「第二類」と「第三類」です。その効果は「第一類」ほどではなく、「使わなくてもいい」という見解が医療界にあります。
例えば、疲れ目に効く目薬にはビタミンが入っている商品が多く見受けられます。しかし、目からビタミンが染み込むかといえば、答えは「ノー」です。なぜならビタミンは口から摂取するもので、理論上は市販の目薬よりアリナミンAなどの栄養剤のほうが疲れは取れるのです。
最近はパソコンの見すぎで目が乾くドライアイの方が多くなっています。ドライアイ用の目薬も売られていますが、その成分は涙と同じであり、正式名称が「人工涙液」と呼ばれる目薬もあります。これはシェーグレン症候群など涙が出ない病気の人には効果的です。しかし、普通の人がドライアイになった場合、1分ほど目を閉じていれば100%治ります。
疲れ目になるとまばたきが増えるのは、まばたきによって涙を流し、目を潤わせて疲れを解消しているのです。
まばたきの回数が多いほど緊張も高く、目も疲れ、ストレスも多くなります。ウソをつくとまばたきが多くなるのも、ウソにより神経が緊張するからです。
国会答弁などでは答弁者の言葉を聞くよりも、目を見ることでウソか本当か判断できるのです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。