ここ数年、パソコンによる目の疲れを訴える人が増えています。仕事で一日中パソコンに向かっている人もおり、長時間同じ姿勢を取り続ける疲労は「現代の職業病」と言えるでしょう。
中でも「目の疲れ」には、目の周囲の筋肉疲労と、眼球ではない顔の筋肉の疲れがあります。読書は活字を追いかけるように目を動かしますが、パソコンの場合、スクロールするため視線がさほど動きません。長時間1点集中ということもあり、眼球をほとんど動かさないことが「目の筋肉の疲労」を呼び起こします。
時には仕事を止めて目を休ませることが肝心です。目の上にタオルを乗せるのは一つの手ですが、その際、タオルはホットかコールドのどちらでしょう。
目に限らず、筋肉の疲れは血流をよくすれば疲れは早く取れますので、冷やすのではなく温めてください。肉体労働の方がお風呂で疲れを癒やすとおり、筋肉疲労回復の基本は温めることです。野球の投手は登板後に「アイシング」として肩を冷やしましたが、これは登板後に肩や肘が炎症を起こすため、炎症を抑えるのが目的でした。言ってみれば「痛みをごまかす」ようなものです。目の疲れも同じで、熱くない程度のタオルを乗せて休憩してください。適度に目を離して目の体操をしたり、紙仕事を挟んでパソコン作業に戻ってもいいでしょう。
人間の体は「均一に疲れる」と苦しくありません。一日中遊びまくり筋肉が疲れると気持ちよく寝れますが、片手で物を押さえるなどふだん取らない姿勢を1時間続けると、筋肉痛の原因となります。これはバランスの悪さに起因する疲れで、目の場合も「同じ姿勢」をなるべく続けないことです。SEやCADなどの職種ではマウスだけを使う人も少なくありませんが、キーボードを使うと指先が動き視線もばらつくのでバランスがよくなります。
昔から「緑を見ると目にいい」「夜空の星を見るといい」などと言われましたが、緑色や星空が目にいいのではなく、たまに遠くを見ると目がピントの調節から外れてリラックスするわけです。長時間、至近距離を眺めている人は、たまに遠くを見てください。
また、パソコン画面から発光される可視光線の中でもブルーライトは光が強く、目の網膜にまで届いて角膜障害の原因にもなります。最近のスマホにはブルーを抑えてオレンジ色にするナイトボードもあり、これらを併用するなど疲れないくふうをすることです。
目が渇くドライアイもパソコンによる目の疲れです。長時間見続けて瞬きが減り、目の表面が乾燥してしまいます。この時にコンタクトレンズを使っているとなおさらです。画面も明るすぎると目の疲れを引き起こすので、明るさを落とすのも一つの方法です。
まぶたがぴくぴくと痙攣する「眼瞼痙攣」もパソコン疲労の一種です。これは眼輪筋という目の周辺の筋肉がこむら返りのように痙攣する「ミオキミア」という病気で、目の周辺を温めると症状も和らぎます。痙攣が出たら「使いすぎてタイマーが鳴っている」と考え、目を休ませてください。
いちばんよくないのは「パソコンの家来」になることです。パソコンを机に置き、自分がそこに合わせてしまうと、目だけではなく腰や肩にも負担がかかります。特に背中を丸めると肺や胃が小さくなり、逆流性食道炎や肺の肝機能障害の要因にもなります。毎日パソコンを使う場合、机や椅子の高さを「自分の体に合わせて仕事しやすい環境を作る」ことが肝心です。その点、テーブルを上げた状態の「立ちパソコン」は姿勢を悪くしない好環境と言えます。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。