興行収入で初登場1位という好調スタートを切った「アウトレイジ ビヨンド」に出演する白竜は、「北野映画」における暴力描写の原点も知っている。リアリティを追求する撮影は、デビュー作から23年間変わっていないのだ。
89年、北野武第1回監督作品「その男、凶暴につき」(松竹富士)で準主役の殺し屋・清弘を演じた、白竜は静かに語った。
「初めは殺し屋役じゃなかった。佐野史郎君が演じた警察署の署長役での出演オファーでしたね。台本を読んだら、署長の役はセリフがいっぱい。俺、役者を始めたばっかりだったんで、できるかなという不安がいっぱいでした。それがクランクイン前に殺し屋役に変更となって、単純にセリフが少ないからホッとしましたよ(笑)」
白竜と北野監督とのつながりは、80年代前半まで遡る。ミュージシャンの白竜は、政治的な理由で発売禁止処分になったアルバム「光州City」を発表し注目を浴びていた。
当時、音楽活動もしていた監督は、白竜に曲の提供を依頼している。だが、お互いに忙しく、なかなか顔合わせは実現しなかったという。
そんな2人が88年、六本木で偶然出くわす。
酒席を誘われた白竜は、
「今度、映画撮るから協力してよ」
と打ち明けられ、
「できることがあれば何でもします」
と、即答した。
当初、「その男、凶暴につき」は深作欣二監督で企画され、「和製ダーティハリー」的な大アクション刑事映画になるはずだったという。しかし、資金の問題、台本の整合性、スケジュールの都合などの理由で深作監督が降板。配給会社の松竹は、主演を予定していた北野武に監督を依頼する。
北野監督は脚本の変更を条件に引き受け、「リアリティ」を前面に打ち出した新しい刑事映画を製作することになった。
撮影前、北野監督は故・今村昌平監督から、「周りの映画作りに慣れきったスタッフや風評に流されてはいけない。流されて作ったものなどから何も新しいものは生まれてこない」というメッセージを渡されていたというが、実際に処女作から自己流を貫き通していた。
最初の現場から、出演者、スタッフの前で「北野流」をブチかましたのだ。
「みんなを和まそうと思ったんでしょうね。赤胴鈴之助のコスプレで現れたんですよ。出演者は笑ってましたけど、映画の現場に慣れたスタッフはドン引きでした(笑)。監督は『やっぱ違うよな、映画の現場は』とか言ってテレてましたね」