ところで、北野映画といえば「圧倒的な暴力」も色濃く表現されてきた。
白竜も出演している、現在公開中の「アウトレイジビヨンド」(ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野)でも、電気ドリルで敵対ヤクザの頭蓋骨を貫通させようとしたり、ピッチングマシーンから繰り出される140キロのボールで顔面を殴打し続けるなど、随所でこだわりが見える。
その暴力描写は、23年前の原点から徹底していた。
“でっちあげ逮捕”で清弘を引っ張り、ロッカールームで我妻が清弘をリンチする撮影シーンでのこと。
そこでは、常に冷静に演出していた北野監督とは別人の俳優としての顔が見られたという。
「たけしさん、バイオレンスシーンの本番になったらマジになりますよ。俺の髪の毛をつかみながら、口の中にピストルをねじ込むという壮絶なリンチなんですけど、本番終わったら、ごっそり毛が抜けてましたからね(笑)。カメラが回っている時は、俺も気を張ってたから、痛くも何ともなかったけど、これには驚きました」
さすがは、売人役の俳優が北野演じる刑事に20発の本気ビンタを食らうなど、リアルな暴力シーンが話題となった処女作である。
白竜の悲劇は続いた。
「岸部一徳さん演じるボスに、俺が3発連続で殴られるシーンがあったんです。1発、2発、3発の3発目で『ガツン』と鈍い音がして思いっ切り顔面に入った。監督のカットの声がかからなかったので、そのまま演技を続けたんですが、一徳さんが『ごめん』と言ってしまってカットになりました(笑)」
撮影が終わると毎晩のように、「一杯いきませんか」と北野監督から誘われていた。しかし、ある日を境に監督から夜の誘いが一切なくなったという。
「最後の3日間、ラストシーンの撮影に入ってからは、ひと言も口をきいてくれなくなりました。俺が『おはようございます』と挨拶しても無視されて。『あれ? 俺、何か失礼なこと言ったかな』と考えるくらいにね」
クライマックスで、敵対する清弘と我妻は拳銃で撃ち合う。北野監督が自分自身に対して演出したのか、役者として我妻役にどっぷりとつかっていたのだろう。
「それまで監督は飲みながら、『ラストシーンが撮れたら、この映画はうまくいくから』と言っていた。そしてラストシーンの前、プロデューサーに『たけしさんは体重を落としてますんで‥‥』と言われましたね。『そうなんですか』と、慌てて俺もダイエットした。映画の命運を賭ける、ラストシーンの重要さを再認識しました」
「その男、凶暴につき」は大ヒットを記録した。そして「殺し屋・清弘」という、当たり役を演じた白竜のもとには、出演オファーが殺到したのである。
「それまでは、『役者がダメでも、音楽があるからいいや』って、いつでもケツまくろうと思ってた(笑)。ところが『その男、凶暴につき』に出てからは、役者としての責任が発生してもう逃げられないんですよ。あの清弘という殺し屋を演じてなかったら、俺の役者人生なんてなかったし、Vシネの『極道の紋章』シリーズや『首領への道』シリーズへの出演なんて、絶対になかったと思う。本当にたけしさんは恩人ですね」