数年ほど前、「ビートたけし“ほぼ”単独ライブ」を開催した時のこと──。“わりと出来たばかり”の、渋谷の大変きれいな会場に到着された殿は、
「まーしかし、えらいきれいなとこ取ったな。こりゃいいな!」
と、まずは会場のピカピカぶりに、素直な感想を漏らしたのです。で、ライブも大成功のもと無事終了。
翌日、わたくしが、「いや~昨日のライブは盛り上がりましたね」と、弟子として当然の感想を述べると、
「とりあえずは成功か?」
と、謙虚な感想を述べた殿は、続けて、
「じゃーあれだな。半年後にまたやるか!」
と、ヤル気みなぎる発言をされ、こちらをワクワクさせたのです。が、ただ“ワクワク”だけでは終わらないのが殿です。
「じゃーよ、次はもっとデカいとこ(会場)でやるか!昨日の汚い渋谷の小屋じゃなくてよ」
と、何のてらいもなく言い放ったのです。
この時、〈いやいや、昨日はきれいな会場って言ってたじゃん!〉と、遠慮なく心の中でツッコんだのは言うまでもございません。
殿のこういった、“本当は大して思ってないくせに、無理して毒舌ぶる”発言は、本当に多々あります。
以前、殿に、誰もがおののく高級割烹料亭に連れていっていただいた時、
「今日はお前は運がいいな。ここはなかなか予約が取れないんだぞ」
と、殿自身も初めて来店するその料亭について、期待感から来るホメの発言を漏らしていました。
で、味も噂どおり素晴らしく、殿は終始、
「うめーな!」
「うん。やっぱり違うな」
と舌鼓を打ち続け、大満足のもと、ご馳走様となったのです。
そんな楽しい食事会から5日ほどして殿にお会いすると、
「あれ、お前だっけ? あの汚い潰れそうな割烹屋に一緒に行ったの?」
と、いつ間にか、予約の取れない人気店が、倒産寸前のおんぼろ割烹屋へと、チェンジした発言を炸裂されたのでした。
この手の殿の発言をわたくしなりに分析すると、きっと、“それ自体に意味はなく、リズムで”言ってるだけであり、もうそれは、「元気か、バカ野郎」「飯食ったか、バカ野郎」と、何にでも「バカ野郎」を付ける、下町のオヤジのそれと同じ感覚なのではないかと。知ってのとおり、殿も下町の足立区出身ですし──。
が、それにしたってあまりにもひどい場合がございます。以前、血統が大変優秀だという、コリー犬を近くで見ることがあったのですが、この時、
「頭よさそうな犬だな」
「やっぱり血統が違うな」
と、絶賛コメントを連発していた殿だったのですが、やはりやはり、後日、その犬の話になると、
「ほら、あのうんこ垂れ流してた犬いたろ。あのバカ犬。あの犬、何犬だっけ?」
めちゃくちゃな感想を、何のてらいもなく、実に元気に言い放ったのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!