ミサイルと核の脅威で国際社会を挑発し続ける北朝鮮。国連があらゆる「経済制裁」を加えてもなお、開発がやむことはない。その資金はいったいどこから来ているのか。超閉鎖的国家の「ブラックホール」に潜む禁断の非合法実態を、国連捜査の現場からつぶさに見てきた専門家が全て明かす。
平昌五輪への参加を条件に、米韓軍事演習の中止を要求する北朝鮮。そんな最中の1月16日、カナダのバンクーバーでは北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る20カ国の外相会合が開かれ、参加各国は国連安全保障理事会が採択した対北朝鮮制裁に加え、新たな制裁を検討することで合意。ティラーソン米国務長官は、制裁逃れの船舶取締りに向け、全ての国が協力する必要があるとし、北朝鮮が新たな挑発行為に出た場合には「新たな結果」を招くと強調した。
これまで幾度となく「最強の制裁」を受けながら、強力な核兵器や米国に届く弾道ミサイルを開発してきた北朝鮮。それに各国が具体的にどのような対応をし、北朝鮮がどのように制裁を逃れているかを捜査報告する立場にあるのが、国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルだ。2011年から4年半、この専門家パネルに所属し、最前線で捜査官として活動してきた古川勝久氏が、北朝鮮の暗部を暴露した著書『北朝鮮 核の資金源-「国連捜査」秘録-』(新潮社)を上梓。古川氏への緊急インタビューで、捜査官しか知りえない驚愕の全貌を連載していく。まずは、武器密輸を担う北朝鮮最大の海運会社と、その背後にいた日本人の存在について──。
時を遡ること5年前の13年7月。キューバから北朝鮮へ向かう北朝鮮籍の貨物船「清川江(チョンチョンガン)号」がパナマ運河を通過中、パナマ政府は違法薬物の密輸容疑で荷物検査を実施した。
「ところが、この船から出てきたのが、ソ連製のミグ21戦闘機や地対空ミサイルシステムなどの大量破壊兵器だったんです。これらはパーツに分解され、計31のトレーラーとコンテナに隠されていた。コンテナの上には大量の砂糖の袋が載せられ、船底に置かれており、積み荷はキューバの軍港、マリエル港で船に積まれて北朝鮮に向かう途中だった。これが北朝鮮による史上最大規模の武器密輸事件として知られることになります」
古川氏ら専門家パネルは清川江号から押収した通信記録などをもとに、捜査を開始。隠匿工作を指揮した主犯として浮上したのが、北朝鮮最大の海運会社「オーシャン・マリタイム・マネジメント社(以下、OMM)」だったのである。
「OMMは多数の貨物船を所有し運航する北朝鮮最大手の海運会社で、その前身は『朝鮮東海海運会社』。この会社は96年に、化学兵器の原材料として輸出規制されたフッ化ナトリウムとフッ化水素水を日本国内の企業と結託し、日本から不正調達。日本政府は09年と12年の2度にわたり、国連安保理に対して制裁対象指定を勧告したんですが、中ロの反対で実現しないという経緯があった。OMMは表向きは中国・大連をはじめ世界各国に拠点を持つグローバル企業ですが、裏では外交官として北朝鮮大使館に赴任しながらOMMの現地代表者としてビジネスを采配する者がいたり、地元の中小企業の従業員になりすまし、あたかも外国人であるかのようにふるまいながら武器密輸活動を行う者もいる、いわくつきの企業だったんです」