北朝鮮は国際社会で孤立している──。そんなイメージを持っている人は多いのではないか。いや、現実はその逆。かの国を生き長らえさせている「武器シンジケート」が世界各国に点在しているのだ。
前回までは北朝鮮の武器密輸を担う同国最大の海運会社「OMM」と、その背後でうごめく「ハヤト・エミヤ」(仮名)なる日本人について、驚愕の舞台裏をお伝えした。
今年1月20日、海上自衛隊のP3C哨戒機が、中国・上海沖の東シナ海上で国連安全保障理事会の制裁対象である北朝鮮船籍のタンカーと、ドミニカ船籍のタンカーによる積み荷の受け渡しを確認。中身は不明だが、北朝鮮への輸出が規制されている石油関連製品の可能性がある。洋上での積み荷の受け渡しは「瀬取り」と呼ばれ、北朝鮮による制裁逃れの手段としてアメリカなどが警戒を促していた。そんな中での大胆な取引に、国連安保理による監視がさらに強化されるのは必至だ。
さて、今回からは第二弾として、世界中に広がる北朝鮮の武器ネットワークの実態を暴いていきたい。インタビューに答えるのは、引き続き国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会「専門家パネル」として、16年まで4年半にわたり北朝鮮武器密輸捜査に当たってきた古川勝久氏である。
ところで、経済的にドン詰まりの状態が続くと言われる北朝鮮だが、なぜそこまでしてミサイルや核開発にこだわり続けるのか。その理由の一つが、国際的孤立への対抗策だという。
「北朝鮮による核計画の歴史は古く、50年代にはすでにソ連国内で原子核研究所創設メンバーに加わり、その後もソ連支援の下、80年代には実験用原子炉の稼働に成功しています。ただ、北朝鮮には核の平和利用ではなく、兵器として使わなければならない、ある事情があった。それが米韓との外交交渉だったのです」
北朝鮮にとって朝鮮半島の統一を目指す韓国とその同盟国であるアメリカは、自国の存在を脅かす相手。そのため、アメリカとの平和協定の締結を目指してきた。だが、朝鮮戦争の平和協定に向けた協議開催を働きかける北朝鮮に対し、アメリカはそれをことごとくはねつける。さらに韓国が国際社会で地位を確立する中、中国との関係に亀裂が入り、90年代になるとソ連の後ろ盾をも失った北朝鮮は、米韓に対する危機感を強めていった。そして、核兵器保有こそが政権存続に最大有効手段だと判断。それが当時の金日成政権の存続にもつながると考えたのである。
「さらにもう一つ、北朝鮮がミサイルと核に固執する理由は費用対効果です。長期的に通常兵器を配備するよりも、核兵器を開発したほうが安いとの見方があります。核兵器を持ち、さらにそれを実行するための弾道ミサイルを製造開発すれば、ミサイル技術や完成品を輸出することで外貨も稼げる。彼らが核とミサイル開発にこだわり続ける理由はここにあるんです」
つまり、北朝鮮は外交交渉のカードとして、また外貨を稼ぐ手段として、国家人民一丸となって「死のビジネス」を展開していたのである。