それだけではない。男子フィギュア界を牽引する羽生とスケート連盟の溝は、多くの関係者から指摘されるところだった。スポーツ紙記者が明かす。
「以前から羽生の家族に対する連盟の態度は疑問に思われる部分が多い。羽生君は2歳の頃から喘息の持病があって、その発作に備えて母親を会場に帯同させるのは当然のことだった。ところが連盟は、家族のケアは一切なし。ある大会では現地会場に家族用のパスが用意されておらず、見かねた新聞記者が取材用のパスを母親に貸して急場をしのいだこともあったほど。マスコミに対してもしかりで、五輪直前になっても羽生君の近況がまったく伝わってこない。これも連盟側からの情報発信がないからです。羽生君や引退前の浅田真央ちゃんでさえも、強化選手であるにもかかわらず、国際大会出場時に航空便の発着インフォメーションは一切なし。こうした閉鎖的な連盟の姿勢が平昌に影響しないといいのですが‥‥」
さらに連覇に向けて新たな火種も浮上してきた。
「コーチであるブライアン・オーサー氏との衝突ですよ」
と言うのは、在米のジャーナリストである。いったい何があったのか。
「今の男子フィギュアは、4回転ジャンプを何本成功させることができるかというのを競うのが主流になりつつある。若手のライバルたちは、4~5種類の4回転を操る選手が多いだけに、羽生は自身が跳べる4種類の4回転をフルに成功させることで、絶対王者として君臨したいプランがある。しかし“連覇請負人”であるオーサー氏からすれば『4回転ルッツを跳ばなくても、他のスケーティング技術で十分に世界最高点を出せる。まずは現時点で完璧にこなせる技で勝負しなさい』とアドバイス。オーサー氏の弟子で、世界選手権王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)がいい例で、彼は2種類の4回転しか跳ばない。これに対して羽生は難色を示していると言われています」
実際、ベストコンディションの羽生であれば、迷わず4回転ジャンプを演技の中で複数組み込むことができるが、ケガの個所が右足首だけに、一発勝負のオリンピックでは、やはりリスキーというオーサー氏の指摘も無理はない。スポーツ中継スタッフが語る。
「羽生君は1月15日深夜に放送された『自分への挑戦』(日本テレビ系)の番組中のインタビューでも『何かを出し惜しみしながら考えてやるのは性に合わない』と連覇達成よりも、自分の力を全て出しきり、圧倒的な勝利を目指すというのが本音なのです」
過去には、トリノ五輪の女子個人は、誰が3回転を成功させて優勝するかに注目が集まる中、「3回転×3回転のコンビネーション」を封印した荒川静香が漁夫の利で優勝したようなケースもある。それだけに戦略的に、どちらを採るかは直前まで揺れ動きそうだ。
「現状ではケガの回復具合もあり結局、羽生はオーサーコーチの指示どおり、連覇を目指す選択をするのではないかと見られています」(前出・在米ジャーナリスト)