日本サッカー史上、いや、日本のスポーツ界において国民に最大のインパクトを与えた引き分け試合、それが「ドーハの悲劇」だ。日本代表イレブンとして、ピッチに最後まで立っていた「ミスター・レッズ」こと、福田正博氏(44)はあの瞬間をどう迎えたのか。
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「実はあの試合、『負けた』と思っている人が凄く多いんですよね」
いきなりこう切り出した福田氏。そう、結果的にW杯に行けなかったことで敗戦のイメージを持つ人が多いのだが、あの試合はスコア的には2−2の「引き分け」。しかし、日本中が〝お通夜〟となった「引き分け」であったことは間違いない。
この「ドーハの悲劇」と呼ばれるアメリカW杯最終予選の対イラク戦。福田氏は、それまでの4戦に悲劇の要因があったと語る。
「6チームの総当たりで、第1戦が対サウジアラビア。日本代表はこの試合を引き分けました。でも、メディアの論調や代表内の雰囲気は『勝てなかった』というものだった。ほとんどアウェーの状況の中、強豪のサウジ相手に勝ち点が取れたから、問題ないはずなんです。でも、どうしてもそういう気持ちになれなかった」
落ち着きを失ったまま臨んだイラン戦、日本は1−2で敗れる。試合後、宿舎に戻った選手たちの表情は暗い。しかし、オフト監督は、にこやかにこう言った。
「ホワイトボードに『3WIN』と書きだして、『キミたちがやるべきことは非常にシンプルだ。3試合全て勝てば可能性はある』。その言葉で、いい意味に開き直ることができました」
日本代表は3戦目の北朝鮮戦、4戦目の韓国戦を連勝し、最終戦を前にしてついに首位に躍り出る。
「北朝鮮に勝って、いいイメージで韓国戦に臨むことができました。当時の韓国戦は、今以上に特別。僕が代表になった時は、韓国に勝つことはほとんどなかったですから。ただ、日本が今まで一番のコンプレックスを持っていた韓国に勝ったことで、今思えば少し浮ついていたかもしれない。イラクと戦ってすらいないのに、W杯が凄く近くまで来た気がしていました」
そして日本代表は運命のイラク戦を迎える。福田氏はベンチスタートだった。
「開始早々に先取点が取れたんです。首位で勝てばW杯に行けることが確実、もちろん悪いことじゃない。けど、逆に早すぎた先制点が焦りを生んだ気がする」
前半5分に先制した日本は前半の残り40分、イラクの猛攻にさらされ、後半10分には同点に追いつかれてしまう。福田氏が交代でピッチに入ったのは、それから4分後のことだった。
「日本は一方的に押し込まれて圧力を受けていた。入った時は選手も消耗して冷静さを失っていた気がします。中山(雅史)が追加点を取ったあとは『早く時間が過ぎてくれ!』という気持ちでいっぱいでした」
しかし無情にも、試合終了間際の後半44分、イラクのショートコーナーから、あの、まさに悲劇的な同点弾を許してしまった。
「あのヘディングは僕の目の前の選手でした。同点のシーンを見ると、僕が映ってるはずですよ。終了間際で両チーム選手交代もあってマークがあやふやになって、日本の選手はあの瞬間、みんなボールウオッチャーになってしまいました。僕も、ゴールネットに吸い込まれるボールを、まるでスロービデオのように見ていただけでしたね‥‥」
あの時間帯、あの展開で勝ちきれなかったことを今の福田氏はこう振り返る。
「大舞台のプレッシャーの中で戦う経験がなかったことが一番の要因。それは選手だけじゃなく、メディアも含めた、サッカー界全体に言えたこと。この試合は僕たちにとっては物凄く大きな失敗でした。それでも今のサッカー界に、その失敗から学んだことが何か伝わっていれば、マイナスではないと思います」
今、まさに隆盛を極めようかという日本サッカー界。その礎は何といってもこの「伝説の引き分け」だったのかもしれない。
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