ロシアの民間軍事会社ワグネルが「爆薬供給不足」を理由に、5月10日をもってウクライナ侵攻最前線のバフムトからの全面撤退を宣言。しかしその後、「弾薬の供給が約束された」として撤退を取り消すなど、発信が一転二転している。いったい何が起きているのか。防衛省関係者が解説する。
「ワグネルの撤退宣言の理由は、ロシアが金欠状態でカネが回らなくなったためでしょう。要求に対する反応が鈍いことへの『ゆすり』ですよ」
ロシア財政の厳しさは今年に入ってから深刻で、欧米の制裁効果が徐々に効き始めているからだという。例えば2023年1月から3月は、石油・ガスによる収入が前年同期比で約45%減っている。政府は資金確保に躍起だが、長引く侵攻でカネは出ていくばかり。ワグネルなど民間軍事組織に流れる報奨金などが細っていき、武器弾薬の供給もままならない状況になるのは当然だろう。
「ロシアではワグネル以外にも、軍部や連邦保安局などと結びつく民間軍事会社が30社以上ある。そのうち25社前後がウクライナ侵攻に絡み、政府筋からカネを得て潤ってきたが、ここにきて目詰まりを起こしつつある。そのため、ワグネルをはじめとする民間軍事会社間では、カネと武器弾薬の争奪戦による内ゲバも頻発し始めているという」(公安関係者)
外資系シンクタンクのベテランスタッフが分析する。
「今回はワグネルが撤退をチラつかせたことで、プーチン大統領が大慌てで資金をあてがい、ひとまず鎮静化させたのでしょう。しかしロシア政府の金欠状態が白日の下に晒されたことから、民間軍事会社の離反が予想される。中国やインドがどこまでフォローするのかが、今後の戦況のポイントとなるでしょう」
最後に勝敗を決するのはカネということだ。
(田村建光)