今年で第90回の記念大会を迎える春の選抜高校野球。その栄誉ある初代王者が高松商(香川)である。
今から94年前の1924年。第1回大会の会場は現在の甲子園球場ではなく、愛知県名古屋市郊外にあった山本球場。出場校数はわずか8校だった。初戦で高松商は優勝候補No.1の和歌山中(現・桐蔭)と激突。試合は強豪校同士の戦いに相応しい大接戦となったが、高松商は4‐6と2点ビハインドの9回裏に猛反撃。7‐6と大逆転し、大会史上初の逆転サヨナラ勝ちを納めたチームとなった。なお、この試合では高松商主将の野村栄一(慶大)がこれもまた記念すべき大会第1号本塁打を放っている。この劇的勝利で勢いに乗った高松商は続く準決勝で愛知一中(現・旭丘)に7‐1で快勝し、決勝戦へと進出した。
決勝戦の相手は好投手・水上義信(早大)擁する早稲田実(東京)。下馬評では高松商不利がささやかれていたが、4回表に打の主軸の1人・村川克巳(慶大)が先制の中越えソロを放ち1点を先制。さらに7回表にもタイムリーで追加点を挙げ、試合を優位に進めた。結局、エース・松本善隆(関学大)が大会第1号となる完封勝利。2‐0で高松商が春の選抜初代王者に輝いたのであった。
高松商は戦後にも1度、春の選抜を制覇している。1960年第32回大会で、左腕・松下利夫(四国電力)を擁して優勝候補の一角に挙げられていた。初戦で同じく優勝候補の平安(現・竜谷大平安=京都)とぶつかったが、エース・松下が被安打3の失点1に抑える好投を見せれば、打線も9安打を放ち4‐1で快勝した。続く準々決勝の滝川(兵庫)戦、準決勝の古豪・北海(北海道)戦をともに2‐0の2試合連続完封で降し、名門らしい堅実な試合運びで決勝戦進出を果たしたのだった。
迎えた決勝戦の相手は山陰の名門・米子東(鳥取)。エースの宮本洋二郎(元・南海など)が本格派の好投手ということもあり、試合は大方の予想通り、両軍が4回表裏に1点ずつを取り合って以降、息詰まる投手戦が展開されていった。こう着状態のまま、延長戦へ突入かと思われた9回裏のことだった。高松商の先頭・3番の山口富士雄(元・阪急)がカウント1ボール2ストライクからレフトラッキーゾーンになんと劇的なサヨナラ本塁打。ちなみに春の選抜史上、決勝戦でのサヨナラホーマーは現在でもこの山口ただ1人しか記録していない。
春選抜で2度優勝している高松商は同じく春で準優勝も3度、夏の選手権では2度全国制覇を果たしている。最近では2016年の第88回春の選抜大会で45年ぶりの決勝進出を果たし見事、準優勝。古豪復活を印象づけた。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=